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“内野安打王”イチローと二塁打記録。
~記録の「ヒットパレード」余波~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2009/09/16 11:30
テキサス・レンジャーズとのダブルヘッダー第2試合の2回、カウント2-0から遊撃への内野安打で新記録を達成
大リーグ通算2000本安打を早々とクリアしたイチローが、9年連続200本安打の大記録を達成した。なんと108年ぶりの記録更新だ。大詰めに来てからはさすがにやや難産気味だったが、病いや怪我に苦しめられたシーズンだったことを思えば、恐るべき継続力というべきだろう。
が、率直にいうと、この記録はすでに織り込みずみだったような気がする。われわれは、それくらいイチローの「ヒットパレード」に馴れている。打って当然、打たないほうがおかしいという考えが、もはや長きにわたって刷り込まれているのかもしれない。
史上初「インフィールド二塁打」の可能性も。
ただ、ここまで打ち続けると、アメリカのメディアも別格扱いを始めるようになる。近ごろで最も派手だったのはESPN電子版に掲題されたジム・ケイプルの記事だろう。ケイプルは、イチローの2000本安打到達の速さに驚き、「ヒットを打つには球を外野に飛ばさなくてもよい」という具体的事実に驚嘆の念を隠さない。
たとえば、イチローの2000本安打のうち、内野安打の数は452本に達する。2001年以降の数字で見ると、第2位がホアン・ピエールの390本だから、イチローは文句なしの「内野安打王」だ。
ついでケイプルは、イチローが史上初の「インフィールド二塁打」を記録するのが時間の問題だと予測する。ここは、彼の記事のハイライトといってよい箇所だろう。
具体的には、イチローがいわゆるボルティモア・チョップの打法で高いバウンドの打球を三塁側に放つ。この打球が、突っ込んできた三塁手の頭上を越えてゆるく転がり、バックアップしようとした遊撃手が処理にもたついている間に、打者走者のイチローが一気に二塁を陥れるというシナリオだ。
ありうる、と私も思う。ただしこれは来季以降、脚の怪我が治ってからの話だろう。
イチローのあとを追うロバーツがねらう二塁打記録。
二塁打といえば、これもイチローがらみで今季は久々の記録が生まれるかもしれない。
といっても、こちらの主役はイチローではない。毎年のように彼のあとを追う安打製造機のひとりブライアン・ロバーツが、9月中旬現在、すでに51本の二塁打を放っているのだ。
意外に聞こえるかもしれないが、年間60本以上の二塁打は、1936年のチャーリー・ゲーリンジャー(60本)を最後に、長らく途絶えている。最多記録はアール・ウェッブの67本だが、これも1931年の産物だからかなりのヴィンテージものだ。ちなみにいうと、ウェッブ(レッドソックスの右投げ左打ちの右翼手)は、この記録のみで球史に名を刻んだ選手だった。ほかに60本以上を打ったのは、ジョージ・バーンズ、ポール・ウェイナー、ハンク・グリーンバーグ、ジョー・メドウィック。バーンズを除けばビッグネームばかりだが、なぜかこの記録は1926年から36年までの10年間に集中している。
というわけで、もしロバーツが60本の大台に乗せれば、久々の快挙になる。可能性は3割前後と思うが、イチロー・ヒットパレードの周囲では、思いがけない副産物がいろいろと生まれてくるようだ。