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From:バルセロナ「遠き日本。」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2008/11/26 14:57

From:バルセロナ「遠き日本。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

ドーハでのカタール戦を見届けた後、アムス経由でバルセロナに向かった。

中東、欧州と日本から遠く離れ、サッカーの本場へと徐々に近づいていく。

そして、サッカーの強さの地理的要因について思いをめぐらせるのだった。

 アムステルダム経由でバルセロナにやってきた。出発点はもちろんカタールの首都ドーハ。ドーハとアムステルダムは、空路でおよそ7時間の距離にある。サウジアラビアのダンマンに立ち寄る分だけ時間を食われるが、それを除けば6時間弱。日本-欧州間は12時間前後なので、カタールが日本と欧州の中間にあるような感覚が実感できる。中東(ミッド・イースト)とは良く言ったもんだ。

 バルセロナに到着して、ホッとすることしきりである。普通ではない国から普通の国にやってきたという意味においてである。やっぱり、カタールは普通じゃない。試合の2日前にドーハに入り、試合の丸2日後、現地を離れたわけだが、まさに脱出してきたという感じだ。

 なにしろ、投宿ホテルは高いくせにボロ。フロントはいい加減だし、タクシーを予約しても、時間通りに来ることはまずない。街で出会う男性のファッションセンスは超独特で、女性陣もまた両目以外すべて覆い隠すこれまた独特のファッションだ。潤いに欠けることおびただしい。常に違和感に襲われている感じなのだ。

 確かに、ホテルの隣にある食堂で食べたチキンは美味かったし、海の色も綺麗だったし、救われる要素がないわけではないが、長期の滞在には、決死の覚悟が求められる。

 しかしだ。'93年にドーハを訪れたときには、そんな気分は味わわなかった。15年も前の話なので、記憶が薄れたことなきにしもあらずだが、少なくとも、早く脱出したい気持ちにはならなかった。

 15年前とはもちろん“ドーハの悲劇”で知られる、アメリカW杯アジア地区最終予選の話である。その3週間近くの滞在は、いまなお楽しい思い出として刻まれている。“悲劇”を味わったくせに何事か。非国民! と叩かれそうだが、事実なので仕方がない。

 サウジ、イラン、韓国、北朝鮮、イラク。実力が接近した相手と争った5連戦は、まさに山あり谷あり。絶望の淵から一転、勝てばW杯出場というところまでこぎ着け、そして最後に悲劇を味わうストーリーも文句なし。アメリカW杯出場こそ逃したが、そこにはエンターテインメントの粋が凝縮されていた。ワクワクドキドキ。最高のスリルを味わいながらの長期滞在は、サッカー好きのライターには堪らなかった。格好の取材対象だったわけだ。

 今回のカタール戦の状況とは、すべてがまるで違っていた。試合前、日本は危ないと言われていた。敗れれば、監督交代もありそうな雲行きだった。ところが終わってみれば3-0。日本が良くやったという見方もできるが、カタールがダメすぎたという見方もできる。僕はどちらかといえば後者の意見だが、強者が弱者を順当に下したことに間違いはない。番狂わせが起きなかっただけに過ぎない。

 15年前のドーハに、カタールはいなかった。彼らは舞台を提供するホスト国役に徹しただけだった。当時も彼らは弱者だった。

 カタールの人口はたったの83万人だ。1億2700万人の日本が強化にそれなりの力を注げば、日本の勝利は順当というべきだろう。バーレーン戦についても同様だ。ウズベキスタン戦だって、日本の勝利は当たり前という話になる。強国との対戦は、次の豪州戦までない。そこに僕は滅茶苦茶、物足りなさを感じる。15年前の予選が懐かしく感じられてしまうのだ。

 いっそのこと、集中開催にしてくださいよ! と思わず言いたくなる。そのほうが盛り上がること請け合いだ。その舞台がドーハなら何の問題もない。カタールについて愚痴る必要もないはずだ。

 もっとも、11年前のフランスW杯予選も、15年前に負けず劣らず楽しかった。絶望の淵から一転、勝てば悲願のW杯初出場という状況まで持ち込み、ジョホールバルの決戦でイランに逆転勝ちを収める展開も文句なし。最高のエンターテインメントだった。

 飛び飛びに行なわれるホーム&アウェー戦でも、あれほどのドラマがあればオッケーだ。監督が途中で更迭されたり、ファンが暴れたり、喧々囂々の渦の中で、予選が行なわれるのであれば、それはそれで十分楽しめるのだが、今回はどうやらそういう展開にはなりそうもない。前回、ジーコジャパンが辿った足跡を踏襲しそうなムードである。予選は楽々通過したものの、本大会では1分2敗……。

 本大会で3連敗を喫し、シラけムードに包まれた反町ジャパンのことも想起する。今回のカタール戦の勝利で、日本のサッカー産業は、むしろ負のスパイラルにハマり込んだと言うべきなのかもしれない。

 このある意味での閉塞感を打破するためには、日本がW杯で、強国相手にまさかの勝利を収める以外方法はない。果たして、岡田ジャパンにその可能性はあるのか。少なくとも僕は、絶えずそこに視点を定めて向き合っているつもりなのだけれど。

 つまり、カタールに勝って喜ぶ気にはまったくなれない。今の代表のサッカーでは、本大会で3連敗の可能性ありだとバルセロナに到着してあらためて僕は思う。

 いつかもこのコラムで書いたけれど、日本列島がサッカー的に刺激のある場所に移動できれば、例えば、地中海にぽっかりと浮かんでいてくれれば、サッカーは飛躍的に進歩すると思う。選手の質に変わりはなくても、だ。それは、人口わずか83万人のカタールが、ともすると厄介な存在に見える理由とも関係深い。 “ミッド・イースト”は、思いのほか欧州に近い。切磋琢磨する環境にも恵まれている。彼らの気質のほうが日本人の気質よりサッカーに向いている。バルセロナにやってくると、日本の遠さが痛感されて仕方ないのである。

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