佐藤琢磨・中嶋一貴 日本人ドライバーの戦いBACK NUMBER
スーパーアグリの撤退による波紋。
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2008/05/19 00:00
「スーパーアグリ・チームが走らないというのでビックリしています。何となく(存続は)大丈夫じゃないかなと思っていたので……。あのチームができたのはボクがまだF3やっていた頃で、テレビで観ていました。前向きに楽しんで、あるものでベストを尽くす明るいチームだったと思います。日本人として、日本のチームがなくなるのは残念」
トルコGPのパドックにスーパーアグリ・チームは来なかった。深刻な財政難によってチームを存続できず、無念の撤退。その感想を求められた中嶋一貴の声は沈み、表情も困惑気味である。
2週間前のスペインGPで、中嶋一貴、佐藤琢磨はそれぞれに好レースを展開した。
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中嶋は予選12位。トップ10入りは逃したものの、チームメイトのロズベルグが15位に終わったことを考えれば上出来。中嶋自身「クルマの力は出し切れた。これ以上タイムをよくするにはクルマを良くするしかない」と、キッパリ言い切った。好タイムの原因として「金曜日からミスなくプログラムを消化し、これまでの5レースの中で一番しっかりした走りができた」ことを挙げるが、カタルーニャはテストでさんざん走り込んだサーキットであり、それだけ走りの課題が見えやすかったということもあるだろう。予選までの自己採点は80点だった。決勝に向けては「スタートをきれいに決めて戻って来たい」といつになく意欲的。
レースはトヨタ陣営がマシンを小破させたグロックと間違えてトゥルーリをピットインさせるチョンボもあり、中嶋はそのミスにも乗じて7位でチェッカーを受けた。開幕戦以来3レースぶり、通算2回目のポイントゲット(2点)である。
「まあ70点の出来ですかね。スタートは悪くなかったんですが、途中でレースペースをうまく上げられなかった。とくに2スティント目のペースが良くなく、バトンに前に行かれてポジションを失っちゃいました。そのことはフランク(・ウィリアムズ)さんにも言われました」
反省点も少なくなかったが、セーフティカーが2回出動するサバイバル・レースによく耐えたと評価すべきだろう。
一方、佐藤琢磨は予選最下位、決勝13位と得点には結びつかなかったが、これまた満足度の高いレース内容だった。
「やっぱりバルセロナのレースですね、何かあるなと思ったらやっぱりあった(笑)」
オープニングラップで前方の混乱に巻き込まれ、逃げ場を失ってノーズをベッテルのリヤにもろにヒット。それ以降、最初のピットインで交換するまでフロントに大きな穴を開けて走行。それでも終盤はクルサードやフィジケラとバトルを展開するなど、最後尾のチームとは思えぬ内容でフィニッシュした。
「思いっ切り走れて、いいレースだったと思います。最後はフィジケラが真後ろにいて(同じ展開で1点取った)去年のことを思い出しました。ベストは尽くしました。次のレースに向けて、前へ前へと進みたい」
佐藤琢磨らしい、力強いコメントを残した。
だが、2週間後のイスタンブール・パーク・サーキットに佐藤琢磨の姿はなかった。
「ファンにとってはスーパーアグリがいなくなって残念でしょうね。ボクひとりになったからといってプレッシャーはありません。期待をかけられる立場になりましたが、できることしかできません。しっかり地に足をつけてやりたいと思います」
たったひとりの日本人ドライバーとなった中嶋一貴はそう言ってトルコGPに臨んだが、皮肉なことに、スーパーアグリ撤退によって足切りのハードルが高くなった予選のQ1で(16位までのQ2進出が15位までとなった)、なんと16位。しかも、決勝スタートの1コーナーでフィジケラに追突され、リヤ・ウイングを失って1周リタイア。
残り57周の間、コース上に日本人ドライバーの姿はなかった。
2週間後、伝統のモナコで中嶋の孤独な戦いはどんな様相を呈するのだろうか……。