MLB Column from USABACK NUMBER
松井秀喜代理人の御難続き
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byNBAE/gettyimages/AFLO
posted2005/03/04 00:00
松井秀喜の代理人、アーン・テレムが御難続きだ。ロサンジェルス・レイカース(NBA)、コービー・ブライアントの婦女暴行事件に始まって、ここ二、三年、立て続けに、依頼人とするスター選手のトラブルに巻き込まれているのである。
昨年は、ノーマー・ガルシアパーラの契約更改を巡りレッドソックスともめたが、4年6000万ドルの提示を「安すぎる」と突っぱねた強気が裏目に出た。昨シーズン、怪我でまともな活躍ができず、FAとしての値段を逆に下げてしまったからである。
おまけに、契約交渉のもつれが高じて、テレムとレッドソックスの経営陣がメディアを通じて罵り合う異常事態まで引き起こし、ガルシアパーラはチーム内ですっかり浮き上がってしまった。結局、シーズン途中カブスに放出され、ワールドシリーズ優勝の美酒を味わう機会を逸したが、ただ優勝の機会を逃しただけでなく、ボストンのファンから「86年ぶりの優勝は不満分子のガルシアパーラがいなくなったおかげ」と「感謝」までされたのだから散々だった。
そして、次の御難は、ジェイソン・ジアンビのステロイド疑惑だった。連邦政府の調査に対し薬剤使用を認める証言をしていたことが12月初めに暴露された後、ジアンビはMLBの薬剤汚染を象徴する存在となった。ファンに対する「謝罪会見」を開いたものの、薬剤問題に直接言及することなく「アイム・ソーリー」を連発、「謝っているのはよくわかったが、何について謝っているのかはさっぱりわからない」と失笑を買った。
テレムは、「検察当局から何も話すなと言われている」とジアンビの謝罪が中途半端となったことを正当化したが、検察当局は「口止めの事実はない」とテレムの発言を否定、「素直に謝ればいいものを、代理人が余計な指図をするから余計にファンの反感を買った」と、今度は、ヤンキースのオーナー、スタインブレナーを怒らせる結果になったのだった。
しかも、スタインブレナーは、「ステロイドで成績を底上げしていた選手に大金を払う羽目になったのは、テレムにだまされたせい」と、テレムに対する不信感を募らせていたからたまらない。松井の契約延長交渉でキャンプ地を訪れていたテレムを見かけた途端に、「くそったれ代理人。あんなやつ大嫌いだ」と、記者団を前に罵る事態となったのである。
テレムは、松井の契約延長交渉で、今オフ、5年5500万ドルでドジャースと契約したJ.D.ドゥルーを上回る条件をヤンキースに要求したと噂されているが、「ジアンビのときにはだまされた」と思いこんでいるスタインブレナーが、「松井でも高い値段をふっかけやがって」と、テレムに対する怒りを倍加させていたことは容易に想像される。だからこそ、姿を見かけた途端に、我を忘れて「くそったれ代理人」と口走ったのだろう。
一方、松井は、スタインブレナーがテレムに対して「切れた」ことを聞かされても一向に動じず、「契約延長のことより、いい成績を残すことだけを考えている」と「大人」の姿勢を貫き、オーナーの幼児性をいっそう際立たせたのだった。