Column from EnglandBACK NUMBER
イングランドが怯える、最大級の屈辱
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2007/10/31 00:00
10月17日のロシア戦に敗れた(1−2)ことにより、イングランド代表はユーロ2008の予選Eグループを、自力突破する可能性を失った。
ただし「全国民がサッカー評論家」とも言われるイングランド人は、「青天の霹靂」ではなく「予想された結末」と受け止めているようだ。監督のスティーブ・マクラーレンへの批判の声も、「(ホームで0−0に終わった)昨年10月のマケドニア戦直後に解雇されているべきだった」というものから、「そもそも代表監督に選ばれるべきではなかった」とするものまで、「それ見たことか」といったトーンで統一されている。
ワールドカップやユーロでは準々決勝止まりで、「(デイビッド・ベッカムら)黄金世代のタレントを無駄にした」と非難されたスベン・ゴラン・エリクソン前監督の後任には、チームに勝利を確信させる存在感と、大一番で確実に勝利をもたらすノウハウこそが求められていた。だがエリクソンの元で助監督を務めていたマクラーレンは、どちらの資質も欠いている。
もっとも、実力も経験も不十分と見られていた割には、就任後の16試合で8勝4敗4引分けという戦績も残している。これは、それなりによくやったと言っていいだろう。主力の故障がきっかけとはいえ、ホームのイスラエル戦で、エミール・ヘスキーとガレス・バリーを抜擢した際には、「どこまで過去に逆戻りするのか?」と周囲から批判されたが、この試合は3−0で完勝を飾っている。そもそも、先のロシア戦でも露呈したボールキープ力のなさなどは、マクラーレン一人が苦言を呈したところで改善できる問題ではない。
とはいえ予選敗退が確定すれば、マクラーレンがFA(イングランド・サッカー協会)から首を切られることは必至だ。皮肉なことに、後任の最有力候補として噂に上っている2名は、いずれも1年前に指名が可能だった人物である。
識者の間で評価が高いフース・ヒディンク(現ロシア代表監督)は、本人がイングランド代表職に興味を示していたにもかかわらず、FAが交渉を進めなかった。FAは、ファンの間で支持率が高いマーティン・オニール(現アストンビラ監督)にも接触していない。オニールは私生活面の理由(妻の看病)で現場を離れていたが、昨夏に現職に就いた直後、「声を掛けてもらえれば検討した」と告白している。
大穴としては、アーセナルのアーセン・ベンゲル、チェルシーを去ったジョゼ・モウリーニョの名前も挙がっている。いずれもクラブで監督を務める方を好むはずだが、FAとしては、オニールと同じ轍を踏まないためにも、打診だけでも行うべきだろう。ベンゲルのような人物が代表を率いるようになれば、マクラーレン体制では中途半端に終わっている世代交代が期待できる。勝負強いモウリーニョが監督になれば、国際大会への予選突破なども、かなり容易になるはずだ。
仮定の話はさておき、マクラーレン率いる現イングランド代表の命運は、11月17日にロシアと対戦するイスラエルが握っている。イングランドはクロアチア戦(11月21日)を残すだけだが、クロアチアとロシアは共に2戦を残している。クロアチアはマケドニア戦で負けなければ、最後のイングランド戦を待たずに予選通過となるが、ロシアの場合はイスラエル戦とアンドラ戦に勝つ必要がある。ここでイングランドにとって最も頼りになりそうなのが、イスラエルというわけだ。
イスラエル対ロシア戦が行われる運命の17日には、Aグループのスコットランドが、本選出場を懸けてイタリアに挑む。英国から宿敵のスコットランドだけが本選に出場するとなれば、イングランド国民にとっては、傷口に塩を塗られるようなもの。さらには、FIFA(国際連盟)国際ランキングで現在13位のスコットランドが、11位のイングランドよりも上位に昇格する可能性さえある。たしかにランキングの信憑性を疑問視する声はあるが、ユーロ出場を逃したばかりか上下関係まで逆転するとなれば、「サッカーの母国」を自負するイングランドにとっては、14年前に同ランキング制が導入されて以来の一大事となることは間違いない。