NBAの扉を開けBACK NUMBER
日米を見たコーチが語るNBAの世界。
text by
小尾慶一Keiichi Obi
photograph byDavid Sherman/NBAE via Getty Images/AFLO
posted2007/10/25 00:00
先月、ドゥエイン・ケイシーが来日した。ケイシーと言えば、昨季までミネソタ・ティンバーウルブズのヘッドコーチ(HC)を務めていた人物。日本との関わりも深く、1990年代には、日本代表や女子リーグのコーチとして活躍した。今回の来日では、新チームの栃木ブレックス(2部リーグのJBL2に所属。来季は、JBLへの昇格が決定している)を対象にしたクリニックを開催。実技を交えて熱く指導するケイシーに、NBAのHCという仕事について、そして、日本のバスケットについて話を聞かせてもらった。
──ソニックスで11年アシスタントコーチを経験したあと、05年にウルブズのHCに。ひじょうに大きな変化だったと思います。
まさに、ビッグジャンプだった。HCになると、すべての決定が自分にはねかえってくる。失敗すれば、すべて私の責任だ。成績や記録が、私の履歴書さ。20勝20敗だとしたら、その過程がどうであれ「勝率50%のコーチ」と呼ばれる(*実際に、昨季のウルブズは、彼が1月に解雇されるまで20勝20敗。プレイオフ圏内の成績だった。専門家の多くは、その健闘を評価している)。でも、そこには確かな喜びがあった。ストレスやプレッシャーもあったが、それも仕事の一部。すべての新人HCが、成長の過程で経験することだ。
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──HCになってから、選手への接し方を変える必要はありましたか?
あった。多くの場合、HCは悪役を演じなければならない。規律を守らせる必要があるからね。ミスをした選手をベンチに下げるなど、嫌われる決断もしなければならない。だから、(アシスタント時代と比べて)選手との関係は微妙に変化する。それでも、NBAでは人と人の繋がりが重要だ。「あのHCのために、とことんプレーしたい」と選手に思わせること。それが、選手との関係において一番重要になる。
──選手から敬意を得るには、どうしたらいいのでしょう?
自分の話すことに、責任を持つことだと思う。バスケットへの理解を深め、一本筋の通った話をするんだ。そうするためには、そうとうの知識と準備が必要になる。選手はね、わかるんだよ。コーチがバスケットを理解していなかったら、彼らはそれを即座に見抜く。バスケットを理解し、NBAというリーグを理解し、毎日毎日入念に準備して練習や試合に臨めば、信頼してもらえるようになる。NBA選手がエゴの塊だというのは、誤解だよ。もちろん、エゴはある。だけど、それだけじゃない。一番大事なのは、自分の考えや哲学を、選手に納得させ、受け入れさせることだ。
──シーズン中の、日々のスケジュールを教えてください。
いつも朝の6時半に起きる。家族と一緒に過ごし、その日の準備をする。オフィスに着くのは、8時ごろ。8時半に、コーチのミーティングがある。それが9時半まであって、それからコートに行く。練習のスタートが10時だからね。シーズン序盤は、こんな感じかな。練習については、2日連続で試合があった翌日は、1日休みにすることにしていた。2日の休みを取るHCもいるけれどね。私にはしっくりこない方法だ(*ケイシーは、厳格なHCとして知られている)。圧勝後にしばらくゲームがない場合は、連続で試合した後でなくても、1日の休みをとっていた。シーズンが進むにつれ、時間を少し遅らせ、短くする。練習での疲れが心配だから、リフレッシュする時間を与える。ウルブズでは、KG(ケビン・ガーネット)があまりにハードに練習するため、よく問題になった。そうしてしまうと、疲労を貯めることになり試合で力が出なくなってしまう。