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暗黒時代に突入しないために。 

text by

安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byPICS UNITED/AFLO

posted2007/03/01 00:00

暗黒時代に突入しないために。<Number Web> photograph by PICS UNITED/AFLO

 地元メディアに勤める記者仲間からこの数年間、私はバイエルン・ミュンヘンがいかに優れたクラブであるかを耳にタコが出来るほど聞かされてきた。借金を作らぬ堅実経営、計画通りに動く組織、有能な社長と敏腕GM……、美辞麗句のオンパレードと完全無欠体質のような説明には少々ウンザリしたものだ。ところが聞く回数が増えれば増えるほど、あえて反証する決定的材料がないことも手伝い、「なるほどね。そういえばそうだよね」とヘンに納得してしまった。何てこった。

 その後、彼らと距離を置くようになった私は「相手の言い分を鵜呑みにする愚かさ」に気づき、なんとかドイツ側の工作員にならずに済んだのだが、事態に気づかなければもう少しで、真っ赤なバイエルン思想に洗脳されるところでしたっけ。危ない、危ない。

 黒字経営は企業として確かに立派である。だが「それじゃ、あまりに夢がないんじゃないの?大赤字のレアル・マドリードやインテルが日本で大人気なのに、大幅黒字のバイエルンは全然そうじゃない」と疑問をぶつけると、「何をいうか。スペインもイタリアもメチャクチャな経営をしている。アイツらは近い将来、倒産するかもしれないんだぞ」と取りつく島がなかった。その他のやり取りを含め、私はこう感じた。彼らには「オレたちこそが近代サッカー経営の理想形」であり、だから「モラルの構築も任せてほしい」の心情が隠れているのだと。

 合理性一辺倒の彼らの哲学(経営、サッカー)を見ていると、まるで絶対倒産しないメガバンクを連想してしまう。豪華本社ビル、快適なオフィス、難関試験をクリアして入社を果たした社員。これをアリアンツアレーナ、クラブ練習場、選手に置き換えたら話は通りやすい。ということはだ……、とっつきにくいんだよね。堅物すぎて。試合に負けても何となく許せたりとか、人に同情を誘うような愛嬌とか逃げ場みたいなものが全然ないのだ。ここらへんがお堅いバイエルン体質の根幹なのだろう。

 そのバイエルンがここにきて極度の不振に陥っている。往年の名匠ヒッツフェルトを引っ張り出したもののリーグ戦では弱小のアーヘンに敗退。チャンピオンズリーグでは統計上カモにしているはずのレアルに苦戦。結果は2−3で、次のホームで1−0に抑えればベスト8進出が決まる結構な筋書きだが、果たしてそんなに上手くいくかどうか。

 このままでいいわけがない。数ヵ月後、あるいはひょっとすると数週間後かもしれないが、再び監督人事で大騒ぎになるだろう。マガート解任時、モウリーニョとウリエの名前が浮上した。最近ではベルント・シュスターも候補に上っている。ドイツ人ながら、母国を捨てたような経歴を持つシュスターに対する思いは複雑だ。でもレアル、バルセロナ、アトレチコで現役を過ごし、監督としても成功しているシュスターの手腕はやはり捨て難い。なにより彼だったら堅苦しい企業風土を変えてくれる可能性を秘めている。

 話は逸れるが、バイエルンはヒッツフェルト、ヘーネス、ベッケンバウアー、ルンメニゲの全員が浮気の経験者である。妻に厳しく指弾され自宅に戻れなかったケースだってある。こういう修羅場を味わった彼らなら、腹をくくり大バクチを打つことも出来るはずだ。

 3月はそういった意味で正念場となるだろう。バイエルンは低迷の道を歩み始めるのか、それとも復活のキッカケをつかむのか。どちらのケースでも私は「堅実経営、有能な社長とGM」といった従来型の論評には加わりたくない。ホメ殺しなんてゴメンだしね。

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