セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
好調ユベントスを悩ます「マネー」。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byGetty Images/AFLO
posted2007/03/12 00:00
3月4日に行われたピアチェンツァ戦。ユベントスが魅せた。
まず、45日間もゴールに恵まれていなかったFWトレゼゲが、試合開始33秒に放ったダイナミックな先制弾で復調をアピールすると、主将FWデル・ピエーロは、自身にとって今季2度目のハットトリック。MFネドベドがトリッキーなプレーを見せれば、世界一の守護神ブッフォンがピアチェンツァの猛攻を止める。国際経験豊かな千両役者たちが素晴らしいパフォーマンスを見せ、呪われた2006年の暗いムードを払拭した。
ピアチェンツァに4−0で大勝したユベントスは、勝ち点を49とし首位を堅持。不正問題で科されたポイント減がなければ勝ち点は58で、現在2位のナポリに11ポイント差をつけて独走していることになる。
会心の勝利に、いつもは強面のデシャン監督も思わず笑みを浮べ、「セリエAでユベントスを指揮するためにトリノにいるのだ」と心中に閉じ込めていた思いを初めて口にした。
セリエA昇格に死角のないユベントスだが、ここにきてクラブ幹部は、懐勘定をし始めたのである。
ことあるごとに奇策を弄してきたユベントスだが、この度、クラブ傘下の組織「ユベントス振興会2006」から、サポーターを対象とする「小口投資プロジェクト」が明かされた。簡単にいうとサポーターへの融資の勧誘である。
近年、セリエAのラツィオ、ローマを筆頭に、2年前からユベントスの株も一部市場で取引がされている。しかし、ユベントス首脳陣の脳裏に「いまの資金では来季、セリエAでは戦えない」という思いがよぎったのだろう、株だけでは十分とはいえないと、全国に1400万人は存在するユベンティーニ(ユベントスサポーター)の協力を仰ぎ、財源を確保しようという策に踏み切ったのだ。
モッジ元GMの失脚により、新しい秩序でチームを構築することを主張する現幹部ではあるが、剛腕モッジ氏のような「ビジネス感覚」に乏しく、資金作りには依然として頭を抱えている。誤算だったのは、デッレアルピスタジアムの大改装工事にともない、今シーズンは本拠地をオリンピックスタジアムにしたため、アウェイでの収益大の反面、ホームでの年間シート、チケット売り上げが激減したことだった。そこで、目先の得より、長い目で見た利益を考えるという見地から、サポーターをターゲットとする「小口投資」のプランが生まれた。この立案に、予想以上に興味を示したサポーターらが多かったことで、このイタリアサッカー界初の試みは話題を誘っている。
将来を見越したこの小口投資だが、実際のところは欧州連盟議会で可決されなければ実現できない。そのため、いずれにしてもユベントスはさらなる財源の確保に現実的な対応を迫られている。首位を走り、セリエA昇格へ現実味がおびてきていることから、「宝探し」はユベントスの責務となっているのである。
勝っても負けてもユベントスを悩ませるのはマネーである。セリエB降格で背負った痛みを分かち合い、理解しあえるユベンティーニによって、ユベントスは金銭問題を克服できるのかどうか。