濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
27秒決着までの、2カ月の戦い。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2009/04/10 07:01
『DREAM.8』(4月5日、日本ガイシホール)のメインイベント、桜井“マッハ”速人vs青木真也の試合は、1Rわずか27秒で終わった。ゴングと同時にマッハが大振りのパンチで前に出たところを、青木がタックルでテイクダウン。青木がパスガードを狙った瞬間、マッハが体勢を入れ替え、青木の頭部にヒザ蹴り、そしてパンチを連打してノックアウトする。それが攻防のすべてだ。だが、試合自体は短い時間だったものの、我々はマッハと青木の“勝負”を2カ月前から見つめてきたのである。
大会2カ月前から戦いは始まる
始まりは、2月12日の記者会見だった。ウェルター級GP(体重リミットは76kg)への青木真也参戦が発表されると、この階級の第一人者であるマッハが怒りを露わにしたのだ。青木は修斗では76kgの世界王者になったものの、PRIDEでは73kg、DREAMでは70kgを主戦場にしていた。一階級下の選手がエントリーしてきたことに対し、マッハは「ナメられてるとしか言いようがない」、「ヤケクソになってるんじゃないか」と語っている。
GP一回戦での対戦が決まると、マッハと青木は“生の感情”をぶつけ合っていった。日本人対決にありがちな「尊敬している選手と闘えて光栄です」式の遠慮などいっさいなし。その激しさは“舌戦”に慣れているはずの取材陣さえ冷静ではいられないほどのものだった。
「(マッハは)ひと昔前の選手」「マッハさんはパンチ力があるし、力は僕より強い。でも試合は僕が勝つ。それがMMAですよ。僕のほうが戦略、近代MMAに長けてる」「バーリ・トゥードの時代は終わり。MMAの時代が始まります」(青木)
「(格闘技のスタイルに)古い、新しいはない。青木だって若い選手に新しい寝技を覚えられたら限界があると思いますよ。彼は身体能力が高くない。勝ってるのは“ビックリ技”ばっかりでしょ」(マッハ)
会場で流れる見所紹介VTR、通称“煽りV”では、こんなやりとりもフィーチャーされている。
「(青木は)ケンカ、弱いでしょ」「今回だけは絶対、負けられない。ナメくさりやがって」(マッハ)
「僕はアスリートなんで、ケンカ自慢には負けられない」(青木)
“ハイテク”と“野生”激突の果てに
新と旧、競技とケンカ。すなわち、最新鋭の寝技技術で一本勝ちの山を築いてきた青木と、“野生のカリスマ”と呼ばれるマッハ。対立の構図はこれ以上ないほど明確だった。重要なのは、この構図が主催者やマスコミが提示したものではないということだ。それぞれが言葉という形で自身の格闘技観、あるいは存在そのものを自発的にさらし、攻撃し合い、そこから軸足を1ミリも動かさなかったのである。
リングで対峙する以前から、彼らはアグレッシブ極まりない闘いを展開していた。我々はその攻防に目を凝らし、心を奪われ、来るべき残酷な結末に思いを馳せた(存在そのものをかけた闘いである以上、結末は残酷なものになるしかなかったのだ)。試合開始のゴングからレフェリーがストップをコールするまでの27秒、それ自体はいわば“フィニッシュシーン”である。たとえもっと短い試合時間でも、勝敗が逆だったとしても、マッハVS.青木は名勝負と呼ぶに値しただろう。それだけの闘いを、彼らは2カ月にわたって見せ続けてくれたのだ。