チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
王朝交代。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byKazuhito Yamada/KAZ Photography
posted2008/05/01 00:00
欧州クラブ戦線における、直近5シーズン分の戦績を元にはじき出されているUEFA国別リーグランキングで、近々プレミアリーグがスペインリーグを抜いて、首位に立つことが確定的になった。
このランキングは試合ごとにポイントが計算されていて、チャンピオンズリーグ準決勝第1戦が終わった時点での上位2リーグのポイントは以下の通り。
1位・スペイン=75.266
2位・イングランド=74.749
わずかに0.517しか離れていない。1勝で入れ替わる関係にある。チャンピオンズリーグのベスト4に残っているそれぞれのチーム数(スペイン1、イングランド3)を考えると、イングランドの優位は明白だ。バルセロナが優勝しない限り、今シーズン中にイングランドのプレミアリーグが欧州No.1の座に就くことになる。
また、このランキングは前述の通り、5季分のデータに基づいているので、来季(08〜09シーズン)になると、今季のランキングには反映されていた03〜04シーズンのデータが対象外になる。そのシーズン、イングランドはスペインに対し3ポイント強ほど遅れをとっていたのだが、その差が自動的に消えることになる。これはつまり、仮にバルサが今季のチャンピオンズリーグを制したとしても、シーズンが今季から来季に切り替わった瞬間、イングランドが自動的に首位に立つことを意味している。
それが一時的なものか、継続するものか、なんとも言えない問題だが、いずれにせよ、首位が入れ替わることは、ちょっとしたニュースに値する。99〜00シーズン以降、06〜07シーズンまで首位が入れ替わることがなかったからだ。その間、スペインはその座を守り続けてきた。「スペイン王朝」が8シーズンにわたり、欧州を支配してきたわけだ。
99〜00シーズンより前に、欧州を支配していたのは「イタリア王朝」で、これもまた長きに渡り、盟主の座を維持していた。90〜91シーズン以降の9シーズン、セリエAは欧州最高峰のリーグの名をほしいままにした。88〜89シーズンから97〜98シーズンの10シーズンで、セリエAのクラブが、チャンピオンズリーグの決勝に進出しなかったのはわずかに1度。90〜91シーズンに限られる。
80年代は、ドイツ、イタリア、イングランドが交替で盟主の座に就く、いわゆる戦国時代だったので、90〜91シーズンから98〜99シーズンにかけて続いたイタリア王朝には、強烈なインパクトがあった。プレッシングサッカーという攻撃的サッカーで、欧州を席巻した。
盟主の座がイタリアから、スペインに移った原因は、これまでにも再三述べてきたとおり、イタリアがその後期に、攻撃的サッカー(プレッシング)から、守備的サッカー(カテナチオ)にスタイルを変えたことにある。
99〜00シーズン以降、盟主の座に就いたスペインのスタイルも攻撃的だった。そして、間もなく盟主の座に就くイングランドも、スタイルは攻撃的だ。「イングランドのサッカーには、シンパシーを感じる」と、言ったのは、デポルティーボの元監督、ハビエル・イルレタだが、実際にプレミアの上位チームが、ピッチに描くデザインは、スペインのそれと同類だ。かつてのイングランドサッカーに、スペイン風味が加味されていることは事実である。
つまり、90年代の初頭から現在にかけての20年弱、攻撃的サッカーが欧州を牽引してきたことになる。さらに言えば、その傾向は今後もしばらく続くことが予想される。リーグランキングにおいて王朝がスペインからイングランドに移っても、ゲームの進め方そのものには、変化が起きることはない。
ただ、時代の節目であることは確かだ。スペインからイングランドへ。第1戦を、0−0のスコアで折り返した準決勝のマンU対バルサは、時代の節目に相応しい試合だ。第1戦は予想外に静かだったが、第2戦は華々しい撃ち合いになること請け合いだ。
両者のチャンピオンズリーグにおける過去の直接対決の結果は、バルサの1勝3分だが、スコアは2−2、4−0(94〜95シーズン)、3−3、3−3(98〜99シーズン)と、常に、エンターテインメント性抜群の名勝負を演じている。現地で観戦する予定の第2戦が、待ち遠しい限りである。