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<柏レイソルの復活請負人> ネルシーニョ 「信頼関係を生み出す温かく深い観察力」
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byDaisaku Nishimiya
posted2011/06/15 06:00
ネルシーニョがレイソルにもたらした意識改革とは。
昨シーズンの北嶋はリーグ戦17試合に出場したが、11試合は9月以降に集中する。4節を最後に先発から外れ、ほぼ2カ月にわたってベンチにも入れない時期があった。
「去年の僕が使われるようになったのは、夏場を過ぎてからですからね。そこで評価を変えられる監督って、なかなかいないんですよ。常日頃から『チャンスは全員にある』って監督は言うんですけど、本当にそうなんです。諦めずに結果を出してやるという思いを抱いていれば、絶対にチャンスが来る。ベテランだから、若手だからメンバーに入れるとかじゃない。いつでも代えられる可能性があるし、いつでも代わって出る可能性がある」
キリンカップ開催に伴う中断までに、北嶋はチームトップの4得点をマークしている。「得点源」という評価は輝きを増しているが、彼の胸中で膨らむのは危機意識なのだ。
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「結果を残しても、先発から外されるかもしれないという気持ちが常にある。練習からホントにみんなが集中して、神経を張り巡らせて、良い競争が生まれている。相手だけじゃなくチーム内で負けたくない気持ちが、そのまま試合に出ている。ベテランから若手まで、全員が同じメンタルで取り組む雰囲気を作り出している監督は、すごいと思いますよ」
試合に出ている選手に、満足感はない。試合に絡めていない選手が、苛立ちや諦めにとらわれることもない。チームに貢献できているのかという自問自答を促し、毎日の練習がネガティブな感情を洗い流し、自信と手応えを磨きあげていく。戦略家として名高いネルシーニョが、二度のJ2降格を味わったレイソルにもたらした意識改革である。
コーチには「最終的な責任はオレが持つから、全力でやってくれ」。
「監督に就任してから、勝利の文化を植え付ける第一歩として、勝つための準備を日々怠らずにやっていこうと問いかけてきました。勝てないときもあるけれど、勝つための準備はいつだってできる。それだけは絶えず続けていかなければならない、と。そうやって勝利を常に意識して、勝つための責任を背負う気持ちで試合に向き合うと、グラウンドに入るときの決意や勇気が強固になる。選手たちが変わってきたな、と感じますね。それはでも、私ひとりではできないことです」
そう言って彼は、「スタッフの役割分担が明確で、彼らの質が高いんですよ」と付け加えた。ヴェルディでネルシーニョのもとでプレーし、昨季からスタッフ入りした布部陽功は、指揮官への思いを大切に取り出した。
「コーチの僕にも責任を与えてくれるので、絶対にやらなきゃいけない気持ちになるんです。『最終的な責任はオレが持つから、全力でやってくれ』って、何度も言われています。僕らのことも見てくれていますからね。指導で考えることがあると、『何かあるのか、大丈夫か』って、必ず声をかけられますから」