Jリーグ観察記BACK NUMBER
首位レイソルの原動力、田中順也。
圧倒的な攻撃力を支える左足の秘密。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byMasahiro Ura
posted2011/06/18 08:00
一昨年はJ1で9試合に出場し無得点で、昨年はJ2で24試合に出場し6得点を挙げた田中順也。今季は得点を量産し、柏のJ1初優勝の原動力となれるか
なぜ今季の柏レイソルは強いのか?
もちろんその理由はひとつではない。例えばジョルジ・ワグネルと酒井宏樹という個の力を持ったサイドバックによる攻撃参加、レアンドロのパスによる崩し、ボランチの大谷秀和のリスクマネージメントなどが、柏が首位を走る原動力になっている。
ただ、柏がなぜ「サイド」からだけでなく、「中央」からも攻められるかというと、答えはひとつしかないと思う。
その答えとは、FWに田中順也がいるから。
2トップの一角に入るこの18番のレフティーが、今、柏に欠かせない攻撃のスイッチ役になっている。
上位対決となった6月11日の横浜F・マリノス戦でも、田中が攻撃の起点になるシーンが何度も見られた。DFの中澤佑二や栗原勇蔵にマークされても、一瞬の動き出しで相手をかわして狭いスペースでパスを受け、動き出した北嶋秀朗やレアンドロの足元にドンピシャでパスを通す。
また、DFの裏にもどんどん飛び出し、前半26分にはペナルティエリア内に走り込んで酒井のクロスを胸で落とし、その流れのこぼれ球を田中自身が左足を振り抜いて先制点を決めた。
これで今季4点目となり、6月11日時点でJ1得点ランキングで5位につけている。
一瞬の動きで相手を翻弄する創造性はJリーグでも屈指の存在。
あえてたとえるなら、元スペイン代表のラウールのようなプレーだ。
裏に抜け出すのがうまいFWはJリーグにもたくさんいるが、田中のように相手を一瞬の動きで翻弄し、さらにシュート場面を作れるFWは極めて珍しい。
横浜戦後、「中澤と栗原相手にどうプレーしたのか?」と訊かれると、田中はこう説明した。
「どんなDFだろうが、寄せられないところっていうのは絶対にある。いつもネルシーニョ監督からそれを言われているので、そういう動き出しを意識しました。接触されると強いので、当たられないようにポジションを取ったということです」
平凡なスペースの概念しかないFWは、密集地帯ではボールを受けられないと考え、サイドに逃げてパスを受けようとする。これでは中央を固めた相手の思うツボだ。それに対し田中は狭いエリアでも、体の向きやボールを受ける足の位置を工夫することで、スペースを生み出してパスの起点になれる。