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<柏レイソルの復活請負人> ネルシーニョ 「信頼関係を生み出す温かく深い観察力」
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byDaisaku Nishimiya
posted2011/06/15 06:00
「監督としてすべてを知るときは来ないでしょう」
全日程の3分の1弱を消化したリーグ戦で、レイソルは7勝1分1敗で首位に立っている。得点はリーグ最多、失点はリーグ最少と、攻守のバランスは抜群だ。
勝利を引き寄せた采配もある。後半開始とともに選手の配置を修正し、ものの見事に流れを呼び込んだ7節の大宮戦は典型だ。もはや日常的となっただけにマジックとは呼ばれないが、彼の哲学が読み取れた一戦である。
「日々訪れる決断を下す場面で、何もせずに見送ることだけはしたくない。練習でも、試合でも。来るべきその瞬間のために、勝った試合のあとでも修正点を抽出しているし、負けたからといって選手への接し方を変えることもない。同じように働きかけをしている。すべてにおいて重要なのは継続です。トレーニングでも、選手の見極めにおいても」
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指導者としてのキャリアは25年を越えるが、「監督としてすべてを知るときは来ないでしょう」と言う。「人を相手にするのですから、決して楽な仕事ではありません」とも。
だからといって、彫の深い顔立ちに険しさが刻まれることはない。静謐な佇まいは温かみを感じさせ、衒いのない視線は愛情の光を宿す。リーダーなら誰もが求める資質を、彼ならではの包容力が引き立たせている。
ネルシーニョ
1950年7月22日、ブラジル生まれ。サンパウロFCなどで選手として活躍後、指導者に転向。'94年ヴェルディ川崎のコーチに、翌年には同監督を務めた。'03年名古屋グランパスエイトを経て、'09年に柏レイソル監督に就任