Column from SpainBACK NUMBER
不振の原因は「台所事情」。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byMarcaMedia/AFLO
posted2009/03/29 02:42
バレンシアが久しぶりに勝った。リーガでは7試合ぶり、UEFAカップも入れると9試合ぶりのことだ。とはいっても実はギリギリで、90分過ぎに許したPKを決められていたら、またもや引き分けに終わっていた。
この1カ月半あまりバレンシアが勝てなかったのは、選手が約束どおり給料をもらっていないからだ――とは言い切れないのだが、そう信じている人は、スペインには結構いると思う。新聞も、選手への同情とクラブへの非難を感じさせるトーンで、常々そう書いてきた。事実、バレンシアの白星なしが始まったのは2月の2週目。選手に支払いの遅延が伝えられてからである。
しかし、キャプテンのマルチェナは反論する。
「給料をもらっているか否かで勝利を目指す気持ちが変わると思っている人は、サッカーを一度もしたことがない人だ」
実際、選手に手抜きはなかった。クラブの中には「支払いの遅れを盾にとり、プロらしくない態度を示すようになった選手がいる」と言う者もいるらしいが、外から見ている限りそうは思えない。彼らは競争激しいスペインで、1部リーグの強豪の一員になるに至った“サッカー馬鹿”。マルチェナが言うとおり、試合のピッチに立ったら本能的に勝利を目指すのだろう。昨シーズン、同様に給料を払ってもらえなかったレバンテの選手だって、業を煮やしてストライキ(試合放棄)を計画したけれど、当日までわざと負けるようなマネはしなかった。それに、ストも結局は実行していない。
だが一方で、マルチェナが何と言おうと、給料未払い、ひいてはクラブの財政危機が選手に負の影響を及ぼしているのも確かだ。
バレンシアは選手に給料が払えないだけでなく、新メスタージャスタジアムの建設工賃も収められず、先日はブラジルのインテルナシオナルからGKレナンの移籍金が期日を過ぎても入金されないと文句を言われた。
総額4億5000万ユーロ(約600億円)を越える債務を抱えながら、今シーズンを乗り切るために更なる借り入れを必要とし、現在クラブの代表が東奔西走中。担保になるのは現スタジアムの跡地と来季のテレビ放映権収入、あとは高値で売れるビジャとシルバの身の代ぐらい。そこで破産法適用の噂が流れ、今季終了後の放出(売却)選手リストが作られ……。
こんな環境でサッカーに集中するのは難しい。選手のモチベーションは、下がりこそすれ高まることはない。
「頭の中では色んな思いが駆けめぐっている」とMFホアキンは言っている。
チームにとって、母体であるクラブの安定と平穏は重要だ。
思い出すのは02-03シーズン前半のバルセロナ。当時のガスパール会長のへぼ運営のせいでクラブはボロボロになり、ソシオが怒って、メディアが叩いて、チームが置かれた状況はひたすら悪化。どこと試合をしても勝てそうな雰囲気は一切生まれず、一時は降格圏ぎりぎりまで順位を落とした。
2月からこちらのマヨルカも良い例だ。
このクラブも年々財政難が酷くなり、昨年夏には最大株主であった不動産会社が破産宣言。英国人に身売りすることになったが、そのオペレーションが最終的に頓挫したところ、チームも調子を合わせるように沈み始め、年明けには降格圏まで落ち込んだ。
ところが、そこにクラブの黄金期を演出したアラマン元会長が現れ、全権を持っての再登板を明らかにするとチームも上昇開始。負けることを忘れ、するすると降格圏を抜け出し、いまや12位につけている。この間、マヨルカのサッカーは変わっていない。変化したのはチームを取り巻く環境だけだ。
バレンシアもクラブさえ落ち着けば、はっきり持ち直すような気がする。難しくはあるけれど、来季のチャンピオンズリーグ出場権だってまだ狙えるだろう。
だが、漏れ伝わってくる話を聞くと、見通しは明るくない。というより、全く先が見えない。
リーガの財政面を研究しているバルセロナ大学経済財政学のある教授は、今季終了後、1部の5、6クラブが破産法の適用を求めると予想している。バレンシアはもちろん第一候補である。この教授はまた「選手への給料未払いで、2部に降格させられるところも出てくるだろう」と言う。いまのままでは、バレンシアは、こちらの有力候補にもなってしまう。