セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
因縁対決で見つけたチョットいい話。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byGetty Images/AFLO
posted2007/12/10 00:00
サポーターによる暴動事件やスタジアム周辺での乱闘……。悪評が絶えないセリエAではあるが、12月2日に行われたリーグ戦第14節で、因縁対決とされる2試合でのエピソードが話題を呼んだ。
まずはカターニャ−パレルモ戦。
シチリアダービーとあって試合開始直後からテンションが高かった両者だったが、90分間フェアープレーに努めた。ファウルがあってもいつもの「パロラッチョ(汚い言葉で)」で相手を罵るのではなく、ファウルした選手が相手に握手を求めるシーンが多かった。また、パレルモのゴール後、イライラするカターニャのMFバイオッコがパレルモのグイドリン監督に食ってかかったときも、パレルモのエースであるFWアマウリがすぐに仲裁に入って、「監督には敬意を表さねばならない」と忠告。主将としての責務に気づいたバイオッコは敵将に詫びた。外国人選手が苛立つ相手のイタリア人を沈静化させたケースは、少なくともシチリアダービーでは初めてのことだった。
パレルモのMFカゼルタが古巣から豪快なシュートでゴールを奪うと、元僚友のマスカラが彼に近寄り賛辞を送る。今年2月3日にサポーター同士の暴動に巻き込まれた地元警察官が死亡するという事件が起きた因縁対決だったものの、今回は選手個々の「心がけ」によって神聖なるダービーに生まれ変わったのだった。
もうひとつはフィオレンティーナ−インテル戦。
首位のインテルに0−2で完封負けを喫したフィオレンティーナのイレブンが、試合終了後にピッチで列を作り、ロッカールームへと向かう勝者を拍手で見送った。ラグビーの試合や欧州チャンピオンズリーグ決勝戦(たとえば昨年のミラン−リバプール戦)でこのような光景を目にしたことはあっても、セリエAで選手が「花道」を作って対戦相手をロッカールームへと送り届けることなど見たことも、聞いたこともない。
先月起こった暴動事件以来、過激サポーター集団のスタジアム入場禁止とセリエA8クラブのサポーターに対してアウェイ観戦が禁じられたことで、招待客である地元の子供たちがスタンドを埋めるスタジアムが増加した。大人げない行動に甘んじている選手たちが子供たちの前では「模範になろう」と、相手を敬うように心がけ、イメージが低下するセリエAにクリーンさを取り戻そうとする努力を感じた。選手たちがフェアな行動を努めれば、スタンドからの罵声も常に拍手に変わるだろう。
1−0、2−1といったスコアで勝敗が決まるサッカーは、弱小チームでも勝利する可能性を秘めているからこそ、ピッチもスタンドも興奮するのだ。罵声と暴力がつきものとされる近年のセリエAが、選手個々の心がけによって「聖戦」に変えることさえできることを、2つの因縁対決が証明してみせたのである。