Column from SpainBACK NUMBER
無敵艦隊、極寒を往く。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2006/03/08 00:00
セビージャでもバレンシアでもない。スペイン代表が定番の地を避けて選んだのが、バリャドリッドだった。「かなり冷え込むけれども、何も問題ないだろう」とルイス・アラゴネス監督は言ったが、あの寒さは大問題だった。いつものことだが、3月1日に行われたスペイン代表対コートジボワール戦のキックオフは夜10時だった。息を吸うと肺が痛くなるほどで、吐く息はタバコの煙よりも濃い。それが、バリャドリッドである。
「ピッチもいい状態だし、練習もできた。もし寒ければ、選手はさらに走ればいいことだ。ハッハッハ」ルイス・アラゴネスの冗談も寒くてたまらない。
スタジアム周辺は、数日前に降った雪が残っていれば水たまりも凍っていた。ここソリージャ・スタジアムが別名「冷凍庫」と言われているのを、あらためて実感。アフリカ人対策として、わざわざ冷凍庫を選んだとしか思えない。スペインはユーロ2004以降、まったく負けてない。ケチをつけたくない。無敵のままドイツへ行きたい、と。
なるほど。しかし「アフリカ人=寒さに弱い」というのは昔の話か。いまやイギリス、オランダ、フランスといった、生暖かいスペインとは比べものにならない寒さのなかで生活しているアフリカ人選手がいる時代だ。まさかとは思ったが、スペインは2度もリードを許すことになる。2度ともばっくり中央からカウンターでぶち込まれた。
もしフットボールがボール・キープ率で争うスポーツなら、スペインはFIFAランキングで首位に躍り出るだろう。でも、ゴールがなければ勝利を味わえないわけで、この日の2失点はカウンターに脆いというスペインの弱点をさらけ出した格好だった。
しかし、3ゴールで逆転したことに意味がある。
1トップにフェルナンド・トーレス、左右にビジャとルイス・ガルシアという3枚を前線に配置したアラゴネス監督が、ゲームメイカーとして送り込んだのがセスクだった。「彼はたった17歳。ロイ・キーンより優れてる」という歌があったほど、アーセナルでは人気者。16歳のとき、FCバルセロナからアーセナルに移籍したセスク・ファブレガスは、まだ18歳と若いが、彼に司令塔を任せても不安は感じさせなかった。
そもそも今のスペインは、W杯出場国のなかで、選手層は最も若いかもしれない。セスク(18)、セルヒオ・ラモス(19)といったアンダー20が2人いるだけでなく、エースのフェルナンド・トーレス(21)、キャプテンのカシジャス(24)もまだ若い。ちなみに最年長はアルベルダ(28)で、プジョル(27)、ルイス・ガルシア(27)が後に続く。しかも、ルイス・アラゴネス(67)は出場国では最年長監督というから、セスクなどは孫の代である。
そんなジイちゃん監督だけども、選手交代はけっこうアグレッシブに行う。W杯予選でもそうだったが、流れが悪ければ後半から両サイドを変えるのが、ルイス・アラゴネスのひとつのパターンだ。スペインには左右に何枚もの翼がある。ルイス・ガルシア(リバプール)、レジェス(アーセナル)、ホアキン(ベティス)、ビセンテ(バレンシア)らは決定機を生み出すばかりでなく、ゴールも決められる。FKも蹴れる。
ラウール?シャビ?すっかり、忘れていた。2人とも膝を壊したことから今回の代表入りは見送られたが、ラウールはすでにレアル・マドリーでは復帰している。スペイン・リーグでエトーに続くゴールを決めているビジャを外すことになるのか。それとも、やはり精神的支柱のラウールにはキャプテン・マークを腕に巻いてもらうべきか……。
お家芸の球回しではブラジルよりもいいセンを行くスペインだが、ストライカーには悩まされる。2点失っても3点奪う、そんな理想的なゲーム展開はいつも巡ってはこない。それでなくても、それほど精神的に強い国民ではない。土壇場に弱い。だから、しっかりエースストライカーがゴールを決める試合も、W杯では必要である。
コートジボワール戦では4−3−3システムが機能したことで、従来の4−4−2とは違った色も垣間見えた。「5度のチャンスのうち、3ゴール決まった。このバランスは悪くない」と試合後に語ったルイス・アラゴネスは、この先どうするのか。2トップの相性を選ぶのか、システムを先行させるのか。トーレスはどう思っているのだろうか。胸の内を聞いてみたいところだけど……。