Column from SpainBACK NUMBER
チェルシーVSリバプールに
リーガ復活のカギを見た!?
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byShinji Akagi
posted2009/04/23 07:01
チャンピオンズリーグ準々決勝チェルシー対リバプールで最も活躍したスペイン人は誰か。
1人だけ選ぶとしたら、フェルナンド・トーレスではなく、シャビ・アロンソでもなく、ペペ・レイナでも、アルバロ・アルベロアでも、ラファエル・ベニテス監督でもなく――、 ずばり、主審のルイス・メディナ・カンタレホだろう。
大舞台に縮こまることなく90分間毅然とし、普段どおりのジャッジを見せたところはさすが国内第2のレフェリー。マルカ紙には10点満点中の9点をもらい、「PKの判断も正しく、非常に良かった」と寸評されていた。
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しかし、ベニテスはそうは思っていないに違いない。試合中、彼は主審の笛に怒り、ベンチから飛び出しては第4レフェリーに文句を言ったそうだ。
「ここはスペインじゃないんだぞ! これはリーガじゃないんだぞ!」
監督ベニテスと主審カンタレホの暗闘
ベニテスが腹を立てたのは、ファウルの基準だった。“普段どおり”の笛を吹いたメディナ・カンタレホが、プレミアでは何でもない接触をいちいち反則としたため、キレたのだ。
この話はかなり興味深い。
国際試合でプレミア基準を求めるベニテスがおかしいからではなく、彼が図らずも両リーグのレフェリングの違いを指摘したからである。
それは、いまスペインのサッカーファンの多くが、「リーガ勢低迷のカギでありプレミア勢興隆のカギ」と睨んでいる点なのだ。
その1人、アトレティコ・マドリーのスポーツディレクターであるヘスス・ガルシア・ピタルクは言う。
「イングランドでは、選手はサッカーをするためにピッチに立っている。そして、レフェリーは邪魔をしない」
悪質なファウルがない限り、かの国のレフェリーは傍観者であり続けるということだ。
「ところが、ここスペインではそうはいかない。常に誰かが転んでいるから」
もちろん、レフェリーの介入を期待して。
つまるところ、プレミアとは対照的に、リーガでは選手が主審の笛を求めているのだ。
たとえば、ドリブルの最中シャツを引っ張られたら、振り解いて走り続けるのではなく足を止めてアピールする。ちょっとぶつかったら大袈裟に転び、フリーキックをもらいにいく。
狡猾ではあるが、それもサッカーの一部と信じてやっている。良し悪しではなく、考え方の違いである。
ラフなレフェリングがプレミアを徹底的に鍛えあげる
だが、そのおかげでプレミアとの間に差が生じてしまったのが現状だ。あちらは90分間アクセル踏みっぱなしで、ちょっとした衝突はアリ。一方、リーガではミラーをこすった程度でブレーキに足をやり、レフェリーのチェックを求める。笛が鳴ったら一旦停車。
体力的にどちらがキツイか、どちらが鍛えられるか、火を見るより明らかだ。
「プレミアのクラブの肉体的な強さは他のリーグを大きく上回っている。イングランド勢のカギはフィジカル面にある」と言うのはアーセナルのセスク・ファブレガス。
ビジャレアルとのセカンドレグを3-0で快勝した後、彼はこう語っていた。
「ビジャレアルに対しては、ボールの出所にプレッシャーをかけていけばいいと思っていた。リーガの試合は、プレミアほど激しくない。その両リーグの違いが僕らに有利に働いた」
それにしても、こうした差異は、いまに始まったことではない。それなのに、なぜここに来て問題視されるようになったのか。
力と技のプレミア3強をバルサは打ち倒せるか?
決定的なのは、かつてスペイン勢が享受していた技術的アドバンテージの消失だろう。
「昔は、まるでラグビーのようだった」とピタルクが言うように、スペイン人にとって以前のイングランドサッカーはただの体力勝負であり、恐れるべきものではなかった。巧さではスペインに一日の長があった上、体格と力だけの敵は技術でいなせることをヨハン・クライフが証明してみせたからだ。
ところが、プレミア勢が世界中にスカウト網を広げ、豊富な資金をもって優れた選手や監督を集め続けた結果、状況は一変。両リーグの技術の差はなくなったどころか、トップクラブだけを比べると上下逆転している。そこで肉体的なアドバンテージがいよいよ脅威となってきたのだ。
欧州ベスト4には今年も力と技のプレミア勢が3チーム残った。そこに独り戦いを挑むのはリーガ代表、ほぼ技だけのバルセロナ。しかし、その技術レベルはクラブ単位ではおそらく世界最高である。
磨き抜かれた技は万能タイプにも通用するのか。凌駕さえするのか。
準決勝の相手はチェルシー。リーガの来季以降の傾向を占う上でも重要な一戦だ。