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「異常事態」宣言を発令したシュツットガルト。 

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安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2007/10/15 00:00

「異常事態」宣言を発令したシュツットガルト。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 昨季王者シュツットガルトは4年連続の黒字決算となり、売上高は7710万ユーロ(125億円)を記録した。今季はチャンピオンズリーグ出場のおかげで売上高は初の1億ユーロ(約167億円)超が予想され、財政規模で欧州のビッグ20に入る見込みである。

 だが経済的にこれほど裕福なクラブだというのに、成績面では絶不調が続いている。開幕戦はシャルケ04を攻めきれず2−2の引き分けに持ち込まれ、その後は3勝5敗と泥沼状態に陥った。9節を終えて12位という体たらくなのである。

 弱小のデュイスブルク、カールスルーエ、ロストックにはいずれも0−1の完封負け。6節のブレーメン戦は1−4の大敗。ブレーメンは過去5試合、ホームで一度もシュツットガルトに勝利できなかったのが嘘のように怒涛の攻めを展開して、最初の4分間で2点を奪い、早くもケリをつけてしまった。

 この敗戦はさすがにショックだったようで、フェー監督は翌日の練習開始前にキャプテンのメイラを自室に呼び、「チームの異常事態」で話し合いを行なった。ポルトガル代表歴44回、ブンデスリーガ160回以上出場のベテランDFであるメイラが、ブレーメン戦でサノゴに3−1となるシュートを楽々と許してしまったことを、フェーはチーム崩壊の象徴と捉えたのだ。

 メイラの不調は目に余る。DFとして堅固な守りを見せていた昨季とは比べ物にならない。1対1での競り合いの弱さ、対敵動作での鈍さが、29歳の年齢から来ているものなのかどうかは即座に断定できないが、今季はまさに「急に衰えた」感じなのだ。

 フェーはメイラの体調が原因だとして庇っているが、実は本人の「心ここにあらず」の一抹の感情が本来のプレーを阻害しているのではないかと言われている。というのも、昨夏よりユベントスがメイラを熱心に誘ってきており、移籍金2000万ユーロ(約33億円)でオファーを出し、これにメイラは色気満々だったのだが契約に縛られて移籍が許されず、その鬱憤が精神的に影響を与えているというわけなのだ。

 同じことはFWゴメスにも当てはまる。こちらもやはりユベントスの高額オファーが原因を作った(らしい)。2500万ユーロ(約40億円)の移籍金を提示されたが、メイラ同様、実現には至っていない。

 一方、移籍問題はないものの、金銭面で折り合いがつかなかったことで不調を指摘されるのは左DFのマグニンである。昨季より5割増しの120万ユーロ(約2億円)の年俸と契約延長をクラブから提示されたものの、マグニンはこれを拒否。今季で契約が切れることになった。納得できない状況で、現役時代の残り時間が少なくなった選手が、果たしてどれほどプレーに集中できるものであろうか。

 こうしてメイラとマグニンはパフォーマンスの低下で、MFパルド、DFオソリオは期待外れということで、批判の集中砲火を浴びている。800万ユーロ(約13億円)というクラブ史上最高額で獲得したルーマニア人若手FWマリカも9試合出場で得点ゼロでは、「お前、何やってんだ」と言われても当然であろう。20歳コンビのケディラとタスチもさっぱり調子が上がらない。ケガ人の多さもマイナス要因だ。

 大敗したブレーメン戦の翌週第7節でボーフムをホームで1−0と下し、ひとまず落ち着きを取り戻したかに見えたシュツットガルトだったが、その後は今季初の連敗を喫してしまった。9節の相手はハノーバー。'02年に2部から昇格したハノーバー相手にシュツットガルトは過去一度も負けていない。それ以前の時代を含めてもホームでは11試合負けなし、10勝を記録している。それほどの“カモ”相手だというのに、0−2で負けた。36年ぶりの敗戦である。このことはまさに今季のチームの行く末を暗示する結果といえるだろう。

 昨季はライバルチームの思わぬ躓きと、無名で無欲の若手選手の活力に任せたおかげで、結果的に堅実に試合を消化してきたシュツットガルトが優勝をもぎ取った。若手も監督もあらゆる面で新米だった。だから恐さを知らなかった。

 しかし思わぬ名誉を手にした監督は、規律重視で妥協を許さぬ自分流の指導を色濃くし始め、負ける恐さを強く意識し始めた。「靴を履くのは必ず左足から。間違って右足だったら、やり直す」というほど頑固でジンクスをかつぐ監督は、ちょっとやそっとのことでは事態の急変に対応できない性格である。

 躍進を支えてきた若手選手は環境の激変に対応しきれぬまま、右肩上がりの成長曲線がストップしてしまった。こうしてチームからは躍動感が消え失せ、閉塞感が募るばかりである。ここらへんが真の意味で勝者のメンタリティーに溢れるバイエルンやブレーメンと異なる点なのだろう。彼らは優勝した翌年も必ず好成績をあげている。

 シュツットガルトは過去2回リーグ優勝('84年、'92年)を果たしているが、翌年の成績は10位と7位である。これではまるで急上昇と急降下を繰り返すジェットコースターと同じではないか。

 この前例に従えば、今季は最終的にUEFAカップ出場が困難な程度の順位に落ち着くはず? いや、そんな“無難な展開”にはならないだろう。「異常事態」の最中、フェー監督は09年まで契約を延長する書類にサインをしたが、今も現在進行形である異常事態を乗り切れなければ、これ以上順位を上げることなどできないというものだ。

 年内のリーグ戦は残り8試合。このうちニュルンベルク戦を除く7試合は、すべて順位が上のチームである。そしてこれにチャンピオンズリーグの激闘が加わる。CLではヘタをしたら1つも勝点が稼げない可能性も排除できない。「異常事態」は一時的なものではない。それが意識できない限り、チーム復活はありえない。異常事態は予想以上に深刻なのである。

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