Column from SpainBACK NUMBER
ロナウジーニョ不要論?!
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2007/10/04 00:00
酒も飲まないし、ディスコも行かないというプジョルと、夜遊びが身体の遺伝子に組み込まれているロナウジーニョ。夜のプライベートでふたりが出会うことはないだろう。
「皆でどんちゃん騒ぎをしたのも、チャンピオンズ・リーグで優勝した夜ぐらい」とプジョルはいう。
それでも、これまでロナウジーニョが批判されることはなかった。大先輩のブラジル人選手らに比べれば、かなりカワイイもんだし。
ロマーリオはバルセロナ時代に夜遊びの度が過ぎて、練習に遅れたことがある。当時の監督ヨハン・クライフに怒られても「オレは酒もタバコもやらない。身体に悪いことはしてない」と逆ギレ。
問題児界のエースであるエジムンドは、セリエAシーズン中にフィオレンティーナに許可も取らず、ブラジルに帰国したのは有名な話。「だって、リオのカーニバルのほうが大切だから」と名言まで残した。その後、エジムンドはクラブと契約する際には「リオのカーニバルのときはお休み」なる契約を結んだという。
ロナウドも自身の頭文字をつけた「R」というディスコを経営するほど踊りは好きで、ドイツW杯期間中でも朝までディスコで遊んでいたし、アドリアーノはディスコで乱闘事件を起すほど踊り狂っている。
ブラジル人+ピンガ(ブラジルの国民酒)=ディスコの方程式は一般常識である。
ところが、バルセロナの暗黙の了解が崩壊する。
ロナウジーニョがバルサの規則である「試合の48時間前から外遊禁止」を破っていた、ディスコで目撃したという記事が踊ったのである。
これには、ザンブロッタが擁護する。
「試合前に外出するのはけっして悪いことではないし、ちょっと1杯ひっかけるぐらいならいいと思う。大切なのはピッチで100%の力を出すことだ」
突然の批判記事に、ロナウジーニョも不愉快である。
「バルサに来て5年になるけど、いつも同じ生活、同じ態度でみんなに接しているのに、いまになって騒ぎ立てることには我慢できない」
さらに追い討ちをかけるようにロナウジーニョを襲ったのが、チェルシー移籍記事だった。
英紙「THE SUN」がいうには、ロナウジーニョの兄アシスとチェルシーとの間で、5シーズン8400万ユーロ(約136億円)の報酬で合意に達した、と。
しかも、右足のケガで数試合リストから外れたロナウジーニョをよそに、バルサは連勝街道まっしぐら。毎試合メッシのゴールが炸裂したことで、「ロナウジーニョ不要論」まで囁かれた。
たまらず、アンリは訴えた。
「バルセロナのマスコミはどうしてそんなにロナウジーニョに厳しいんだい? 厳しすぎるよ」
誰が、バルサを蘇らせた? 無冠のシーズンから脱して、欧州のチャンピオンにまで輝いたのも、ロナウジーニョがいてのことである。
「彼がクラブに多くのことを与えてくれたのを忘れてはいけない」(チキ・ベギリスタイン)ことは、誰もが知っているはずなのに、ロナウジーニョはやることなすこと噛みつかれる。
誰もプジョルのような行動を、ロナウジーニョには求めてない。それでは、味がない。ただロナウジーニョのネタがおいしすぎるのだ。もちろん、マスコミの声が正論のケースだってある。ファンとマスコミは選手にときに厳しく、ときに暖かい。これこそ、スペインのフットボール文化であろう。はたからみればこの関係がたまらなく面白い。
思えば、歴代の先輩たちもそうだった。彼らは叩かれても叩かれても、問題児のままだったではないですか。スペインのスポーツ新聞も単純なもので、結果を出せばヨイショしまくりですから。
これはもう、踊り好きなブラジル人なら誰でも通る道なのだろう。優秀なブラジレーニョである証なのかもしれない。
夜遊びしたロマーリオの決め文句はいつもこうだった。
「ピッチで結果を出せばいいだろう?」