MLB Column from USABACK NUMBER
「A−ロッドの守備はゴールド・グラブ級」の嘘
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGettyimages/AFLO
posted2005/11/18 00:00
11月14日、アレックス・ロドリゲスがデイビッド・オーティースを僅差で抑えてア・リーグMVPを獲得した。トータルの打撃成績をOPS(出塁率と長打率の和)で比較したとき、A−ロッド10割3分1厘(ア・リーグ1位)、オーティース10割0分1厘(同3位)とほぼ互角だったが、たとえば終盤接戦時(註)に限ってOPSを比較したとき、A−ロッドの9割3分8厘(同12位)に対しオーティース12割9分3厘(同1位)と、勝負強さという点では圧倒的にオーティースが勝っていた。勝負強さが物を言って、オーティースが指名打者として史上初のMVPとなるのではないかという下馬評も強かったのだが、結果として「打つだけの選手をMVPにするのはいかがなものか」とする意見が優り、A−ロッドがMVPを獲得したのだった。
二人のどちらがMVPにふさわしいかについては、シーズン中から議論が沸騰したが、私は、「A−ロッドは打撃だけではなく、ゴールド・グラブ級の守備でもチームに貢献した」という主張には、どうしても同意することができなかった。というのも、A−ロッドの三塁守備は、間違ってもゴールド・グラブ級と言えないほど上手くないからなのだが、なぜゴールド・グラブ級とは言えないのか、以下に説明しよう。
前回も論じたように、エラー数や守備率ほど守備力の評価法としてあてにならない数字はない。守備範囲が狭く、消極的な守備に徹する選手は、守備範囲が広く、積極的な守備に挑戦する選手と比べて、エラーの危険を冒す頻度そのものが減るからである。A−ロッドの場合も、確かに、エラー数や守備率で見た場合はア・リーグ三塁手中第4位と「良い成績」を残しているが、「エラー」という公式記録員の主観的判断ではなく、「どれだけアウトを取ったか」という客観的な数字で守備力を評価した場合、A−ロッドの守備力は、ゴールド・グラブ級どころか、ア・リーグで一番下手という結果になるのである。
図1に、「アウト寄与率(9イニング当たりの補殺数と刺殺数の和、英語ではrange factor)」という数字で、昨季・今季のア・リーグ三塁手の守備力を示したが、この図からも明らかなように、A−ロッドは、二年続けてア・リーグ一下手な三塁手となっているのである(A−ロッドの成績は赤丸で示した)。
ちなみに、図2に、ア・リーグ遊撃手の守備力を、やはり「アウト寄与率」で示したが、遊撃手だった時(2002年、03年)のA−ロッドは、きちんと上手な守備をしていたことがよくわかる(図2でもA−ロッドの成績は赤丸で示した)。図1と図2をあわせて見ていただければ、不慣れな三塁の守備に、2年経っても適応できていないA−ロッドの苦労がおわかりいただけるのではないだろうか。
ところで、A−ロッドのヤンキース移籍が決まったとき、「デレク・ジーターよりも、A−ロッドの方が守備は上手いのだから、三塁にコンバートするのはジーターの方だ」という議論があったが、確かに、02年、03年と、ジーターのアウト寄与率は、ア・リーグ最下位だったから、この主張には説得力があった(図2、ジーターの成績は緑丸で示した)。
しかし、A―ロッドの加入後、ジーターの守備力は、見違えるほど向上した。「アウト寄与率」が、04年・05年と、大きく向上したことは図2でも明らかだが、A−ロッドの加入で、よほど発奮したようである。努力が実って、今季は、初のゴールド・グラブ賞を受賞したのだから、偉いものである。
(註:「終盤接戦時」は、7回以降で、1点リード、同点、あるいは同点走者が「塁上、打席、あるいは次打者席」にいる状況、と定義される)