佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
アンダーフロア
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2007/07/05 00:00
「バルセロナで新しいギヤボックスが来て、空力をアップデートしましたが、唯一アンダーフロアだけが間に合いませんでした。そのフロアが来ることでバルセロナ・パッケージが完璧なものになるんです」
マニ-クールの戦いを前に、佐藤琢磨は新車のジグソーパズルの最後に残った大事なひとつのピースに少なからぬ期待をかけていることを話した。
「いままでは余分なスペースを空けて走ってたということになりますから、クルマ本来の走りじゃなかった。だから明日からがすごく楽しみなんです」
今年でひとまず最後となるマニ-クールの戦いを前にした佐藤琢磨のテーマは、マシンのポテンシャルアップだった。
アンダーフロアはマシン本体から空中に生える各種のウイングと違って「フリー・ダウンフォース」である。つまり、ウイングは効率よくダウンフォース(空気の下向きの力)を発生させるデバイスではあるが、それに比例してドラッグ(空気抵抗)も増える。ところが、アンダーフロアをうまくデザインするとドラッグを増やすことなしにダウンフォースだけを高めることが可能だ。その結果、ダウンフォースがタイヤに強く働くことでグリップが高まるから、マシンのラップタイムは黙っていても上がるはずだ。
バルセロナでは従来マシンよりコンパクトなギヤボックスが導入された。しかしアンダーフロア後端の跳ね上がりは小さなギヤボックスを活かすように絞り込まれてはいなかったのだ。だが、新フロアにすることで空気抜けが向上し、車体と地面との間の空気の流速が高まる。それが大きなダウンフォースを生むのである。
「明日は午前中に新しいフロアの効果をチェックして、午後はタイヤ比較をします」
木曜日の琢磨はそう言ってメディア・スクラムの席を立った。
だが、金曜日の走行を終えてからの琢磨の声は明るくなかった。
「フロアが変っただけのポテンシャルアップはなかったですね。フィーリングは悪くないけど、ダウンフォースはそう変らない。期待していたほどの効果はなかったです」
明けて土曜日の予選でもQ1で19位とQ2進出ならず、いつもの手応えがなかった。
「グリップ感がなかったですね。クルマの持っているスピードは出し切れたと思いますが、そのスピードがちょっと足りなかった」
アメリカでの黄旗追い越しのペナルティがあるから、スターティング・グリッドは最後尾。ここからトップ10圏内に這い上がることはまず無理だが、ひとつだけ望みがあった。
雨である。琢磨自身も「雨ならずっとチャンスが広がる」と言っており、実際、降水確率は50〜70%と、けっして低くはなかった。
だが、雨頼みのセンは消えてしまった。そればかりか、スタートでのクラッチ・トラブルにより出遅れ、1回目給油時には作業ミスを受けて10秒近くのタイムロス。琢磨が本来戻るポジションよりもずっと後方となったために、フェラーリ勢とハミルトンに迫られてアクセルオフ。そのつど2秒近くラップタイムが落ちて、2周遅れの16位フィニッシュがやっとだった。
いいところがほとんどなかった琢磨のフランス・グランプリだったが、アメリカでのペナルティはこれでリセットされ、アンダーフロアの不発もデータ収集で改善されるかもしれない。ただし、イギリスGPの初日走行が始まるまでに4日間の猶予しかない。佐藤琢磨の、というよりスーパーアグリのチーム力が試されるマニ-クール明け、シルバーストンまでの数日間である。