ジーコ・ジャパン ドイツへの道BACK NUMBER
今年三度目の苦い経験は、次へ活かせ。
text by
木ノ原久美Kumi Kinohara
photograph byTamon Matsuzono
posted2004/12/20 00:00
試合後の会見で、ジーコ日本代表監督は経験という単語を何度も繰り返した。「代表チームの経験」、「経験する機会」、「W杯本番で経験すること」……。そしてこう言った。
「経験と試合運びのよさ。決めるべきところでしっかり決める。そういうところでやられた」。
2006年W杯開催国であり、2002年大会準優勝のドイツをむかえての親善試合だったが、日本はFWクローゼに2得点を許すなどで3−0で敗れ、2004年の活動を勝利で終えることはできなかった。
キックオフから1分も経っていなかった。ドイツは縦パスをパン、パンとつないでペナルティエリアまで持ち込むと、いきなりシュートを打ってきた。MFエルンストのボールは右ポスト脇を飛んでいったが、それは続く90分でビジターが見せるプレーの始まりだった。
試合2日前の来日という日程も、シーズン中ということもあってか、ドイツのコンディションは悪くない。速い寄せとテンポのいいパスで中盤を支配し、日本のゴールを脅かし、ホームの日本に自分達のプレーをさせない。前半14分にはバラックが続けざまにシュートを放ち、その3分後には右CKにアサモアが合わせる。GK楢崎のセーブ、MF小笠原とDF三都主のゴールライン上でのカバーリングがなければ失点していた場面だ。
相手のペースでのプレーを余儀なくされていた日本は、前半25分頃から小笠原のサイドチェンジやDF加地のオーバーラップからチャンスを作りかけるが、フィニッシュまでいかない。後半早々、三都主のシュートが相手DFにブロックされたり、後半31分には、左CKに合わせたDF田中のヘディングが大きくバウンドしてバーを越えるというシーンがあったものの、それ以外はゴール前でのチャンスに、打ち損ねやファーストタッチのボールコントロールにミスが出る。
シーズン終盤で疲れの溜まったフィジカルコンディションや、DF宮本やDF中澤らをケガで欠いてベストメンバーは組めなかったことなどを差し引いても、選手それぞれがいつもならできることができない。相手のプレッシャーが、アジアのレベルとは違うことを示していた。
「中盤のプレッシャーがすごく速く、こっちがチャンスと思ったら、きちっとファウルででも止めてきた。そういう経験を持ったチームだった」と、三都主は振り返った。
ドイツは、後半8分にバラックのFKを楢崎が弾いたところにクローゼが詰めて先制点を入れると、後半23分には、カウンターから中央をドリブルで攻め上がったアサモアからバラックがパスを受け、DFをかわしてゴール右上に狙いすましたシュートを決めた。ロスタイムには、ゴール前で冷静に細かいパスをつないでクローゼが左隅へ決めた。
「ボールの失い方が悪い。ミスを見逃さないところが相手の強いところ」と、田中は言った。
黒星は4月のハンガリー戦、8月のアルゼンチン戦に次ぐ今季3度目。だが、明らかに今年の対戦相手の中では、最も手強いチームのひとつだったと言えるだろう。
このレベルでは、システム云々の問題より、いかに素早く適切な判断をして、ひとつひとつのプレーを厳しいプレッシャーの中でも正確にできるかということが求められる。アジアでは通用していても、世界では通用しないもの。その違いを認識し、体現できるようになることが、今後の日本の成否を握ることになる。
ジーコ監督は、「ドイツ、ブラジル、アルゼンチンというこのレベルでは、ミスをすると確実に得点に結び付けてくる。それで肌で感じさせられる試合だった。上のレベルに行くためのいい教訓」と言った。
だが、経験するだけでは十分ではない。問題は、経験したことを来年の試合で活かせるか。それも、これまでにチームが積み上げてきたものにプラスして、だ。来年1月の準備合宿、そして2月からのW杯最終予選で、この経験を活かしてほしい。