Column from SpainBACK NUMBER
EURO2008スペイン代表のすべて
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byAFLO
posted2008/05/26 00:00
5月18日、ルイス・アラゴネス監督が発表したユーロ用スペイン代表のリストは意外なものだった。ゴールキーパーとディフェンダーは順当だったので、中盤から前だけ見てもらおう。
MF──イニエスタ、シャビ、シルバ、セスク、セナ、シャビ・アロンソ、デ・ラ・レッ、カソルラ
FW──トーレス、ビジャ、グイサ、セルヒオ・ガルシア
ビジャレアルのカソルラとサラゴサのセルヒオ・ガルシアが初めて召集され、反対にウイングの2人、バレンシアのホアキンとエスパニョールのリエラの名前がないのだ。
ホアキンについては「外れる可能性が高い」とあらかじめ聞いていたので、「やはり」程度の感想しか抱かなかったが、リエラの選外には驚いた。昨年秋の代表入り以来、概ね期待に応える働きをしてきた、計算できる選手である。メンバー発表に際し、アラゴネスは「選手を見て決めた。(所属する)チームが1位だろうと2位だろうと関係ない」と語ったが、その言葉を疑ってしまうような、ちょっと理解しがたい判断だ。エスパニョールには他にもルイス・ガルシアやタムードといった代表候補がいたが、結局全員が落選の憂き目に遭った。
アラゴネスはまた、ウイングをゼロにしたこのリストで結構なリスクを背負い込んだとも思う。戦術的にはもちろんのこと、監督自身の精神面において。
スペインのサッカー文化は、攻撃がちょっとでも滞ると、すぐサイドアタックに原因を求める。だから、今回のチームは選手の顔ぶれからわかるとおりショートパスを繋いでボール支配率を高めるサッカーを志すものだけれど、どれだけ良いプレイをしても、ゴールを決めないことには、きっと言われてしまうだろう。「ウイングを使わないからだ」と。
それなのに、アラゴネスはウイングを使わないどころか、オーストリアへ連れて行くことさえしないのだ。これでは批判されるような事態に陥っても、身を守る盾がない。サイドアタックに関しては、両サイドバックと心中である。外野のノイズなど無視し、最後まで自分のアイデアを貫き通す覚悟があるのだと考えれば潔いが、場合によっては相当なプレッシャーを受けることになるだろう。ちなみにAS紙が行った「ファンが選ぶスペイン代表」アンケートでは、ホアキンもリエラもしっかりメンバー入りしていた。
一方で、そこまでしてアラゴネスが決めたカソルラとセルヒオ・ガルシアの召集は、意外ではあったけれど納得がいく。2人とも本職のウイングには負ける──というかプレイの質が異なる──が、サイドでも良い仕事をするし、なにより現在絶好調。カソルラに至っては声をかけるのが遅すぎたと言ってもいい。スペインのサッカー専門誌ドン・バロンが選んだ昨シーズンのリーガMVPである。実際のところ、ピッチに立つチャンスはほとんど巡ってこないだろうが、どちらも度胸のある方なので、初舞台がユーロなんてことになっても縮こまったりはしないだろう。
ところで、最終的にセルヒオ・ガルシアのものとなったフォワード枠に、アラゴネスは当初バルサのボジャンを考えていたようだ。が、ボジャン本人に「必要とあらばいつでも行くけれど、今は疲れ切っている」と辞退されてしまった。
まだ17歳のボジャンはこの1年でU-17の欧州選手権とワールドカップに出場し、U-21代表のエース格となり、バルサのトップチームで多くの試合に出ている。疲れたというのも当然だが、代表OBのモリエンテスなどは「あの年でユーロなんてまたとない機会。出たくないなんて不思議だ」と首をかしげている。