佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
佐藤琢磨 グランプリに挑む Round 11 イギリスGP
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta
posted2004/07/16 00:00
「さっすがぁ〜!」と、思わず声が出た。
サーキット・メインウイング2階にあるプレスルームの眼下に、予選8番手の佐藤琢磨がいた。
空を映したような色のヘルメットを凝視しながら、祈るような気持ちでスタート・シグナルの五つの赤色灯が消えるのを待つ。
スタートはいつも通り素晴らしかった。一瞬の反応の早さは抜群。しかしマシンのクラッチスタート・システムの開発が十分でなく、悲しいかなそこから先の伸びがない。
それでも琢磨は予選9位のウエーバーを抑え、モントーヤの後ろについて高速S字コーナーを抜け、続くハンガー・ストレートでモントーヤのスリップストリームに入り、ストウ・コーナーの入り口でズバッとインを衝いて7位に上がる。
思わず叫んだのはこの時だ。異星から来た荒法師モントーヤに、面と向かって勝負をかけるとは!
「モントーヤとサイド・バイ・サイドになったのは初めてだと思うんですよ。でも、あのバトルはたのしかった」と、レース後の琢磨。さすが“レーサー”である。
ところがその後がいけなかった。
3周目にチャペル・コーナーでふくらみ、モントーヤに抜き返されてしまう。マシンのバランスがすぐに悪くなってしまって、ペースが上がらない。モントーヤには離されるばかりでなく、ウエーバーに追い立てられる。
決定的だったのは1回目のピットインである。
この日、佐藤琢磨は2回ピットストップ作戦を採っていた。そのため3回ピットストップ組が早めに最初のピットインをすると琢磨のポジションは自動的に上がり、13周目には同じ2回ストップのシューマッハーに次ぐ2位にいた。
しかしタンクが軽くなったここでスパートをかけなければならないのにペースは思ったように上がらず、ピットイン直前遅いクルマが出現、抜くのに手こずっている間にウエーバーとマッサに抜かれてしまう。スローカーに出遭うタイミングがいかにも悪かった。
給油を終えてコースに戻った琢磨は、14位に落ちていた。観ているこっちもだんだん無口になって来る。フィニッシュは11位。トラブルもないのに3番ポジションを下げた。
「トラブルなしにジェンソンと2台揃って完走したのは開幕戦以来。完走すればポイントが取れると思っていたのに、そうじゃなかった。これはきびしいですよね」
レース後の琢磨は「仕方ないですね」と言いながら、その表情は硬かった。
不振の原因は分かっている。金曜日にサードカーのA・デイビッドソン車がトラブルでストップし、セットアップのデータが不十分だったからだ。おまけに土曜日午前中はマシンのフロアに穴が空いていることが発見され、交換。予選にはセッティングをガラッと変えて臨んだが、これが不発。決勝になったらセットアップ不足が露呈され、すぐにタイヤが足を引っ張ってペースが上がらなかったのだ。
それにしても感心するのはF1の開発スピード競争の早さだ。琢磨が初表彰台に立ったわずか3戦前のアメリカで6、7位がやっとだったマクラーレン・メルセデスが、シューマッハーを脅かすほどの速さを見せるのだ。
「今週のヘレス・テストが重要です。ここで大きくステップすることができなければ後半戦はきびしい」
シルバーストンを後にする琢磨の言葉だった。