Column from GermanyBACK NUMBER
一気に男を上げた“補欠GK”のカーン。
text by
安藤正純Masazumi Ando
photograph byGetty Images/AFLO
posted2006/04/25 00:00
“カーンかレーマンか”で争われてきたドイツ代表正GK問題がついに決着した。クリンスマン監督が選んだのはアーセナルのレーマンだった。
なぜW杯で実績を築いたカーンではなくレーマンだったのか。カーンの地元ミュンヘンでは、「監督、コーチが仕組んだカーン外しが進行していたからだ」と激怒する声が聞こえてくる。すなわち、(1)カーンからキャプテンの座を奪い取った。(2) カーンがもっとも信頼していたGKコーチをクビにした。(3) 90年代から仲の悪かったケプケを新たなGKコーチに就かせた。(4)
監督、GM、レーマンが共に同じ代理人を抱えている、というものだ。
だが細かく分析していくと、(4)を除いてすべて偶然というか当然の人事である。感情に任せて怒るほどのものではない。決め手となったのは、“カーン外し”といった陰謀めいたものではなく、ここ数ヶ月間のパフォーマンスではなかろうか。
カーンは古いタイプのGKだ。ペナルティエリアから外へ出ようとせず、チームメイトに対しても、ただ怒鳴りつけるだけ。それに対しレーマンはチームと協調しあいながら、アーセナルの若いディフェンス陣の後ろでリベロのような役割を演じ、積極的にチームを指揮する。表情は終始落ち着いており、決してカーンのように相手を挑発しない。
またレーマンはペナルティエリアをコントロールし、正確なスローイングは素早いゲーム展開を可能にしている。カーンのゴールキックは大ざっぱなことが多く、敵の前でもボールを足でさばくことがある。ヒヤヒヤした場面を見たのは1度や2度ではない。一対一での強さや、優れた反射神経も存分に活かされないことが多々ある。それがチャンピオンズリーグでの結果にも反映された。
カーンはACミラン相手に1−4の惨敗。レーマンはレアル・マドリードとユベントス相手に4試合を完封で、トータルでも8試合連続無失点(正GK決定後の準決勝ファーストレグも無失点)。この比較は強烈だ。誰だって納得するしかない。
プライドの高いカーンはこれで代表から引退……と誰もが直感した。だが数日後の会見で、「チームに残ってレーマンを支援する」と表明。この“滅私奉公”によってエゴイストのイメージが強かったカーンは一気に男を上げた。
人事が揉めて組織がうまく機能するなんて、世の中ありえない。そう考えたら、ドイツはこれで一歩、優勝に近づいたと楽観的に捉えてよいのではなかろうか。もっとも、想像を絶する距離の中でのわずかな一歩だが。