MLB Column from USABACK NUMBER
2007年日本人選手活躍予想
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byAFLO
posted2007/02/06 00:00
ちょっと前までは、選手がどれだけ活躍するかを予想するのは、プロの評論家など「目利き」に任せるのが習いだった。しかし、最近は、セイバーメトリクス(数理統計的野球解析学)の発達にともなって、客観的データに基づくコンピュータ・モデルで選手の活躍を予想することが当たり前となった。予想モデルの中でも「良く当たる」と評判が高いのが、野球シンクタンク「ベースボール・プロスペクタス」が開発した「PECOTA(Player Empirical Comparison and Optimization Test Algorithm)」である。
同シンクタンクは、2003年以降、毎年、シーズン前に「PECOTA」予報を発表しているが、ここ数年、熱心なファンの間では、「当たるもPECOTA、当たらぬもPECOTA」と、「コンピュータ占い」のスプレッドシートを読むことが、オフシーズンの楽しみの一つとして定着するようになった。今年も、1月18日にPECOTA予報の詳細が発表されたので、その中から日本人選手に関する部分を紹介しよう(ただし、マイナー契約の選手は含まれていない)。
まず、投手に関する予想は以下の通りとなっている。
防御率 | VORP* | |
松坂大輔 | 4.01 | 34.8 (16) |
井川慶 | 4.46 | 21.8 (69) |
大塚昌則 | 3.72 | 12.1 (181) |
斉藤隆 | 3.79 | 10.5 (221) |
大家友和 | 4.88 | 8.7 (287) |
* VORP:Value over Replacement Player (控え選手を上回る価値)の略。たとえば、松坂のVORPが34.8であるということは、「チームにとって、松坂の価値は通常の控え投手よりもシーズン当たりの得点換算で34.8点高い」ということを意味する。括弧内はメジャー投手879人中の順位
松坂、井川と、メジャーではまだ一球も投げていない投手の成績が予想されているが、日本での成績を「ダベンポート変換」といわれる方法でメジャーの成績に換算した上で、PECOTAを適用しているのである。両投手とも非常に高い評価を得ているが、特に松坂は、同じレッドソックスのカート・シリング(VORP33.7、17位)とほぼ同等、チームのエース/オールスター級の活躍をすると予想されている。
続いて、野手の予想は以下の通りとなっている。
打率 | 本塁打 | VORP* | |
井口資仁 | .288 | 14 | 22.6 (101) |
城島健司 | .299 | 13 | 20.7 (124) |
岩村明憲 | .275 | 17 | 19.6 (138) |
松井秀喜 | .288 | 15 | 19.3 (144) |
イチロー | .312 | 6 | 13.1 (253) |
松井稼頭央 | .274 | 5 | 2.3 (556) |
田口壮 | .266 | 2 | 1.9 (574) |
* 括弧内はメジャー野手921人中の順位。
井口、城島、岩村、松井(秀)と、チームの主力として申し分のない活躍をすることが予想されているが、イチローの評価が非常に低いので、読者は驚かれたのではないだろうか。しかし、これは、PECOTAというモデルそのものの限界に基づく「見立て違い」なので、心配するには及ばないだろう。というのも、PECOTAは、「成績がよく似た過去の選手と比較することで未来を予想するシステム」なので、イチローのように、「過去にまったく類似選手がいない」ユニークな選手の予想には著しく不向きだからである。たとえば、昨季にしても、PECOTAはイチローのVORPを17.6と予想したが、実際には46.4 (野手1030人中40位)と、イチローはコンピュータをあざ笑うかのように、はるかに上回る成績を残した。他の選手には見事に通用するコンピュータ予想が、ことイチローに関してはまったく通用しないのだが、イチローの「別格さ」は、こんなところにも現れているのである。