MLB Column from WestBACK NUMBER
招待選手枠という楽しみ方
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byAFLO
posted2007/02/05 00:00
いよいよ今年も、“球春”と呼ぶに相応しい季節がそこまで迫ってきた。日本人選手たちもキャンプインを前に続々米国入りし、各々自主トレを行っている。このキャンプでは、今年新加入の松坂大輔、井川慶、岩村明憲ら各選手の動向が気になるのは当然だろうが、それと同時にマイナー契約から招待選手としてパイレーツのキャンプに参加する桑田真澄投手の“再チャレンジ”も注目を集めることだろう。
昨年のドジャース・斎藤隆投手に引き続き、日本で実績を積んだベテラン投手のメジャー挑戦となるわけだが、昨年の斎藤投手は十分なチャンスを与えられないまま開幕マイナー行きを味わった。チーム事情が多少違っているとはいえ、キャンプ期間中に桑田投手が他のメジャー投手と同じように起用されるとは考えにくい。その分、少ないチャンスをどれだけ生かすことができるのか、すべては桑田投手にかかっているといえるだろう。
今回、知名度の高い桑田投手が利用したことで改めてクローズアップされることになったメジャーリーグに存在する招待選手枠というシステムだが、ここアメリカではベテラン選手たちの再雇用制度としてかなり有効に活用されている。現在オリックスを退団になった中村紀洋選手が、再入団先が決まらず1人自主トレを行っている状況を考えると、ベテラン選手の再雇用に関してやはり日米に大きな格差があると言わざるを得ない。
例えば日本では、戦力外通告された選手が新たな入団先を探す手段は、合同トライアウトぐらいしかない。2年前にテスト生としてキャンプに参加し、再入団を勝ち取った吉井理人投手の例をみてもわかるように、一度戦力外通告を受け、さらに合同トライアウトでも移籍先が見つからない選手でも、活躍の場を与えればまだまだ復活できる選手は少なくないのではないか。選手との労使協定を見直すだけで、日本でも招待選手制度を採用できると思うのだが、球界全体で真剣に話し合ってほしいものだ。
メジャーで長年取材を続ける自分個人としても、毎年この時期は招待選手の存在が興味の対象になっている。先日レンジャーズとマイナー契約を結び、桑田投手同様招待選手としてキャンプに参加するサミー・ソーサ選手のように、メジャーで実績を積んだ様々な選手たちが再挑戦してくるからだ。現在のメジャー球界には高額所得を獲得するベテラン選手たちがいる一方で、毎年のように招待選手枠からキャンプに参加し、様々なチームを渡り歩きながらギリギリのところで生き残っているベテラン選手も決して少なくない。
そんな折、USAトゥデー紙に掲載された招待選手を含めた各チームのキャンプ参加選手リストに、日本でも馴染みのある選手たちを再発見できたので、ちょっとその一部を紹介したいと思う。
例えば桑田投手と同じパイレーツには、桑田投手とジャイアンツで同期になったこともあるジョン・ワズディン投手、またインディアンズで数年間先発捕手として活躍したエイナー・ディアス選手らが招待選手として参加することになっている。さらに昨年まで日本で活躍していた選手たちもメジャー復帰を目指している。例えば中日にいたアレックス・オチョア選手はレッドソックスのキャンプに、またソフトバンクにいたホルベルト・カブレラ選手はカージナルスのキャンプに参加する予定だ。
さらに有名どころでは、俊足スイッチヒッターとして長期大型契約も手にしたことがあるロジャー・セデーニョ選手がオリオールズに、メッツやホワイトソックスで日本人選手のチームメイトとして何度も取り上げられたことがある元広島のティモ・ペレス選手はタイガースだ。オリオールズで先発投手として活躍しながら、昨年のシーズン途中でカージナルスを解雇されたシドニー・ポンソン投手はツインズ、3年前のレッドソックス優勝メンバーの1人だったマーク・ベルホーン選手はレッズに、さらにメジャー通算145勝し、昨年もドジャースで8勝したアーロン・シーリー投手でさえ、招待選手としてメッツのキャンプに参加している。
前述通り、ここに紹介したのはほんの一部。これ以外にも個人的に馴染みのある名前が次々に招待選手リストに並んでいた。彼らもまた、桑田投手同様に今回のキャンプでゼロからの再スタートを切ることに変わりはない。もちろんこれだけの多くのベテラン選手がしのぎを削るわけだから、彼らにとってもメジャー生き残りは決して簡単ではない。
とはいえ、これらの名の知れた招待選手たちは、我々メディアのみならずキャンプにやって来るファンからも注目を集める存在であり、そういった意味ではチームにとって大切な集客力としても機能している。契約面を含めメジャーのドライな部分ばかりが取り沙汰されがちだが、ベテラン選手に対する思いやりというか懐の深さは、日本をはるかに凌いでいるといえるだろう。