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ファンを魅了するおもしろい野球とは。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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photograph byNaoya Sanuki

posted2004/12/17 00:00

ファンを魅了するおもしろい野球とは。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

 イチローと松井秀喜のどちらが好きかということをよくきかれるが、ぼくは二人をそういう目で見たことがないので、何とも答えようがない。好きか嫌いかということなら、清原などのほうがずっと好きだ。

 しかし、どちらの野球が面白いかときかれれば、ためらわずにイチローの野球と答える。 松井は、打席に立ったときにホームランを打つかどうかだけを見ていればいいが、イチローはそうはいかない。内野ゴロでも内野安打にしてしまうし、塁に出ればいつ盗塁するか分らない。サードベースから、普通のランナーなら絶対にスタートをきらないような内野ゴロの間に、らくらくとホームに還ってくるのを見たこともある。

 守備でも同様だ。ラインぎわのフライであれ、右中間を抜けそうなライナーであれ、あらかじめ落下地点が分っていたように追いついてしまうし、1、3塁になりそうなヒットでもランナーを2塁に止めてしまう。3塁に走れば殺されるとみんな知っているからだが、じっさいギャンブルを試みたランナーの多くは殺された。

 つまり、イチローの野球は、攻撃のときであれ、守備のときであれ、彼がフィールドに立っているかぎり、いつ何が起きるか分らないから、極端にいえば1球も目を離せないのである。彼がアメリカ野球に登場したとき、アメリカのマスコミが野球の原点を思い出させてくれたと賞賛したのも、その1球も目を離せない野球を指していったのだろうと思われる。

 2004年の日本の野球は、球団合併や1リーグ化、それにともなう選手会のストライキなど、野球そのもの以外の問題が噴出した年だったが、ジャイアンツ戦のテレビ視聴率の低下もそのひとつだった。

 しかし、それも、FA制が導入された1993年以来、ジャイアンツがどういう野球をやってきたかを考えれば、当然のことといえる。イチローの野球とまったく反対の野球をやってきたのだ。いつ出るか分らないホームランだけを待っている野球で、あとは、風のような走塁も、守備のときのスーパーキャッチも、矢のような送球も、あっとおどろくようなことは何も起こらない。

 走塁はともかくとして、野球というのは9回攻撃したら9回守らなければならないスポーツだ。その守備に見るべきものが何もないというのは、ゲームの半分の時間は退屈していなければならないということにほかならない。そんな野球を誰が1回から9回までチャンネルを変えずに見るのだろう。

 さいわい、堀内監督は、来シーズンからはスピードに重点をおいた野球をやるといっている。就任当初から、これまでのようなジャイアンツ野球はおれが変えるといっていたが、1年を経てようやくその青写真ができたのだろう。

 その中で、清原の残留はいい材料ではないが、3年先、4年先に目を据えれば、ちいさな問題にすぎない(いくら好きでも、清原にはもうスピードは望めない)。

 ともかく、いつ出るか分らないホームランだけを待っているような野球では、もうファンをひきつけられないことははっきりしているのである。

イチロー
松井秀喜

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