MLB Column from USABACK NUMBER
WBC、日本を崖っ縁に追い込んだ
「目立ちたがり」審判。
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byNaoya Sanuki
posted2006/03/28 00:00
開催前にはいろいろと批判されたWBCだったが、初めての試みであることを考えれば大成功だったのではないだろうか?特に準決勝進出が絶望視され、崖っ縁に追い込まれた日本がまさかの優勝、日本の野球ファンにとっては最高の結果となった。
しかし、そもそも日本がなぜ崖っ縁に追い込まれたかというと、それは、あの「世紀の大誤審」が原因だったことは言うまでもない。もし、メキシコが米国を破る波乱がなければ、日本は「お粗末審判の誤審のせいで予選敗退」という後味の悪い結果になっていたわけだから、いくら結果がよかったからといって、笑ってすますことができる問題ではない。
メジャーには、昔から「審判がいい仕事をしたのは、その存在に誰も気がつかなかったとき」という格言があるが、「世紀の大誤審」をしたボブ・デイビッドソン審判員、もともと「目立ちたがり」の性格で知られていただけに、「いい仕事」をするなど、望む方が間違っていたのである。しかも、今回のWBCでは、「審判団長」的役割を与えられたこともあって、その「目立ちたがり」に拍車がかかっていたからたまらない。西岡の離塁が早すぎたと日本の勝ち越し点を取り消した後には、メキシコの本塁打を二塁打と誤審するなど、世界中の野球ファンが、いやでもデイビッドソンの存在に気がつくことになってしまった。
そもそも、なぜ、こんな「目立ちたがり」の審判が「団長」的役割を担わされたかというと、その原因は、99年の労使交渉の際の「集団辞職事件」にさかのぼる。「ストライキよりも強硬な戦術を」という当時の審判組合執行部の命に従って、メジャーの審判たちが一斉に大リーグ機構宛に辞表を提出したのだが、機構は、「辞めたいのならどうぞ」と辞表を受理してしまった。当初の思惑とは裏腹に、突然職を失うことになった審判たちは「辞表は撤回します。勘弁してください」と、慌てて詫びをいれたが後の祭り、機構は、もともと、技量が劣ったり性格に問題があったりした審判については辞表撤回を認めず、「これ幸い」とばかりに「解雇」してしまったのだった。
実は、デイビッドソンも、このとき「解雇」された審判の一人だったが、当時、審判であるにもかかわらず自分のラジオ番組を持つなど、その「目立ちたがり」を快く思っていなかった向きは多かった。しかも、「Balking Bob」というあだ名をつけられるほどボークを多くとることでも有名で、「目立ちたがり」の性格はグラウンドでの「審判術」にも現れていた。
デイビッドソンがこのとき審判業から足を洗っていれば、今回の「世紀の大誤審」事件も起こっていなかったのだが、解雇直後から始めたなりふり構わない復職運動が実って、昨季、「パート扱い」でメジャーに復帰、「次に欠員が生じたらメジャーの正規審判に採用」というところまでこぎ着けていたのである。本来ならば、今回のWBCはメジャーの審判が仕切るはずだったが、金銭面での条件が折り合わなかったためにマイナーの審判が担当することとなり、経験も長く、実質的にはメジャーの審判であるデイビッドソンが「団長」格となったのだった。