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中田英寿 ナカタというベストポジション。 

text by

西部謙司

西部謙司Kenji Nishibe

PROFILE

posted2005/04/14 00:00

バーレーン戦後の記者会見、ジーコ監督の話は精神論に終始した。

 「全身全霊をかたむけてくれた選手たちがもたらしてくれた結果だ」

 決勝の1点は相手のオウンゴール。「運」についての質問が続き、ジーコはうんざりしながら同じ回答を繰り返していた。

 最後に中田英寿についての質問が出た。中田のベストポジションはどこなのか?

 「どのポジションでも全力を出せるタイプの選手。たとえ1分でもチームのために何だってやれる」

 ボローニャでのプレーを見たことはありますか?― 質問者に反問した後、ジーコは直接問いに答えることはなかった。

 「彼のような選手がもっと出てくれば、日本は必ず強くなる」

 と言い、会見を締めくくっている。

 およそ1年、中田不在の間に日本代表は4-4-2から3-5-2を中心としたシステム変更を行い、アジアカップで戦う術を身に付けていた。中田のコンディションが整い、再びチームに合流したとき、そのポジションはどこになるのか。メディアの関心も、そこに向けられていた。中田不要論さえあった。

 ジーコ監督は、基本的に勝っているチームは変えない。これはサッカーの鉄則でもある。しかし例外は何にでもあるもので、明らかに有力な戦力を加えない手はない。過去の言動からみて、ジーコが中田を加えることに躊躇はないと推察できた。では、ジーコはどんな形で中田を迎えたかったのか。トップ下か、ボランチか、FWか、それとも右のアウトサイドか。イラン戦は4-4-2の右MFだった。代表での定位置である。次のバーレーン戦ではボランチの一角である小野伸二が出場停止となり、中田はボランチに入った。フォーメーションは3-5-2に戻している。

 それまでも試合途中でポジションを下げたことはあったが、スタートからボランチでプレーするのはバーレーン戦が初めて。中田は攻守に活躍し、この試合のベストプレーヤーといえる働きをした。では、ボランチがこれからの中田の居場所になるのだろうか。

 「システムどうこうよりも、1対1で負けていたことを個々が見直す必要がある」

 テヘランで1-2と敗れた後、中田は「4バックだから負けた」という論調に釘を刺すようなコメントを残している。

 「システムで勝てる時代ではない。選手のクオリティが重要だ」

 こちらは、ジーコ監督。ポジションを並べ換えるだけで勝てるなら監督はいらない。だが、選手の間には「3バックのほうがやりやすい」という声があったのも事実だった。

 小手先で予選は戦えない。中田とジーコは韓国人の監督がよく口にする「精神武装」を説いた。一方、そのためにも血肉化した3-5-2への回帰を願う選手もいた。3か4かは、このチームの場合、ただ“慣れ”の問題である。たかが慣れか、されど慣れか。

 「選手が3-5-2に慣れているのは知っている。加地、田中、宮本、中澤、アレックスの連係はいい。イラン戦で4枚にしたのはFWやMFのためではなく、田中がいなかったからだ。いれば3枚だった。一番やりやすい方法で、気持ちの強さを出せば勝てる」

 ジーコも知らないわけではない。

 このチームの守備は基本的に人数合わせである。グループでゾーンを切り、奪いどころを定める守備ではなく、人をつかまえてパスの出所を抑えていく。守備エリアは自陣全域になってしまうため、「1人余る」方法でないと、とてもスペースを抑えられない。ところが、イランは2トップだった。4バックでは人数調整がやりにくい。慣れてもいなかった。だが、実はこの守備の最大の欠点は3でも4でも変わらない。カギはDFそのものよりも、2列目にある。

 敵陣まで、しっかりパスをつないで攻め込んでいく。それがないと、このチームは押し上げが利かない。引いて守るのが前提で、FWもサポートを必要としている。ポゼッションなしでは陣形が伸びきりになってしまう。問題はボールのとられ方だ。パスを刻んで押し上げるのだから、とられたときも周辺のサポートは自然にできている。1列目で奪われたら、周辺の集中守備ができる。最終ラインもオフサイドの駆け引きをする。

 ただし、2列目だと話が違う。ここで奪われたときは、ボール周辺の集中守備と、相手FWの前進に伴うDFの総退却がほぼ同時に行われるからだ。集中守備を突破されれば、ボールを持った敵の前方には広大なスペースが開けている。ミドルシュートを食らいやすいのも、この弱点ゆえだ。これに関しては、DFが3でも4でも一緒である。

 中田のボランチ起用は諸刃の剣だった。中村と縦の関係を築くことで、組み立てがスムーズになる。強力な2人のプレーメーカーを並列させるより、縦に関係をつけたほうが効力があるのは歴史が証明している。ベッケンバウアーとネッツァー、プラティニとジレス、ラモス瑠偉とビスマルク……。中田が深い位置から縦に上がり、中村がサイドへ流れる。バーレーン戦の前半、中村はセットプレーを含めて5分間もクロスを上げ続けた。触れば1点の高速クロスは徒労に終わったものの、結果的に決勝点の伏線となっている。触れば1点ではなく、混戦を狙う速度を落としたFKをきっかけに、バーレーンはエースが自陣ゴールへ蹴り込むほどの大混乱に陥った。

(以下、Number625号へ)

#中田英寿

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