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遠藤保仁 「そろそろガムシャラ!」
text by
藤沼正明Masaaki Fujinuma
posted2004/06/03 00:00
「彼ほどやりやすい選手はいない」
遠藤保仁とプレーをともにした選手に聞けば、必ずといっていいほどそんな答えが返ってくる。
たとえば、「イーブン」という言葉で遠藤を表現したのは、ガンバ大阪でもコンビを組んでいた稲本潤一だった。彼にとっての遠藤とは、「どちらかが攻撃重視とか、守備的とかではなくて、お互いに攻撃も守備もやるというか、いい部分を引き出しあえる」存在なのだという。
中村俊輔も「自分の持ち味を引き出してくれる選手」と、遠藤を評するひとりである。彼の場合は代表でしかチームメイトになっておらず、稲本ほどプレーした時間が長いわけでない。だが、遠藤と同じピッチに立つたびに、「ずっと一緒にやってきたような」心地よさを感じてきた。
「すごい」というよりも「やりやすい」。そう評される遠藤のプレイスタイルは、もはやチームメイトの共通認識だといっていい。少なくとも彼がピッチにいることで、一定の開放感を味わっている選手はひとりやふたりではない。
「たしかに、ボクが出てる試合になると、イナも心おきなく前に出ていくし、アレ(三都主アレサンドロ)もガンガン攻めに行っちゃいますね」
そんなほめられ方には、さすがに遠藤も苦笑いを浮かべる。しかしだからといって不服という様子でもなかった。その証拠に、彼の頭には、チームメイトそれぞれについてどうサポートするべきかというテキストが、ぎっしりとインプットされているのである。
たとえば、
「俊輔は、いったん足もとにボールをつけたほうが生きる選手なんですよね。スペースでボールを受けるというよりも、まずはボールを足もとに収めてから持ち味を発揮するタイプ。だから、そういう状況を作ってあげれば個人技がより光ってくるし、あいつがもとから持ってるアイデアの幅も広がる」
といった具合である。
チームメイトからしてみれば、遠藤は頼もしい理解者なのである。
さらに彼は、チームメイトの特長を論ずることのみに収まらず、それを生かすために当人がどうするべきかという提案にまでイメージを広げている。4月の欧州遠征を話題にしたとき、彼はこんなことを言っていた。
「この間のチェコ戦なんか、たしかに守ってる時間も長かったですけど、これまでに比べて(小野)伸二とイナの連繋がすごく良くなってましたよね。とくに後ろ(最終ライン)との連繋は確実に進歩してます。かなりスムーズな印象がありました。あとは前との連繋ですよね。前はヒデさんと俊輔、それに(藤田)俊哉さんが入れ替わりでやってる感じですけど、攻撃の部分で、少し伸二が遠慮してるかなっていう気はしました。もう少し伸二が自分でゲーム作るようなイメージでやってもいいかな、と。たとえば、ミランのピルロみたいなイメージで、伸二がどんどん攻撃を操っていけばいいと思います」
現在の代表チームにおける小野は、遠藤にとってポジション上、当面のライバルに他ならない。小野の技術の高さ、メンタルの強さは周知の事実であり、彼とポジションを争う境遇を、「はっきり言ってキツイですよ~」と、遠藤も弱音めかして語る。だが、小野を押しのけて試合に出ることの難しさを味わっている彼自身が、小野の良きアドバイザーであろうとしている。
むろん、チームメイトの特長を把握する作業を、他の選手が怠っているわけではない。だが、たいていの選手は自分の持ち味を押し隠してまで、チームメイトを引き立たせようとは考えない。むしろ自分の持ち味を生かすための手段として、チームメイトを研究するケースがほとんどだろう。パサーがFWの特長をよく把握しておきたいと思うように。
自分の持ち味を殺すことで評価を高めてきた遠藤は、代表メンバーのなかでも特異な存在というべきだろう。