ジーコ・ジャパン ドイツへの道BACK NUMBER
第10回:国際親善試合チェコ戦レポート「欧州組+国内組の、難解な方程式」
text by
木ノ原久美Kumi Kinohara
photograph byAFLO
posted2004/04/30 00:00
ハンガリー戦の宿題を片付けて勝利を得た。
東欧遠征2戦目、日本は前半31分に久保がゴールを決めてこれを守りきり、1−0でチェコに勝利を収めた。
勝利の要因はいくつかある。相手が日本を甘く見ていたこと、新メンバーが入って彼らにはアピールしようという思いがあったこと、遠征1戦目にハンガリーと対戦して負けていたこと、チェコ戦にはいわゆる欧州組が入ってチームに質が加わったこと、そしてGK楢崎の「2敗はしたくなかった」という一連の好セーブ……。
6月の欧州選手権へむけて準備中のチェコは、ネドベド、ボボルスキー、コレル、ロシツキーらそうそうたるメンバーを揃えたが、3月末のアイルランド戦に次ぐ黒星となった。
「日本を甘く見てなどいなかった」とブルックナー監督は言ったが、選手たちのプレーを見ると、隙があったことは否めないだろう。立ち上がりの猛攻で先制できると踏んでいたようだが、日本の身体を張ったディフェンスに合って点が入らない。戸惑ううちに、日本がプレスをかけ、パスをつないで自分達のペースをつかんでいった。
久保(横浜)のゴールも、藤田(磐田)からのボールを玉田(柏)が前線で落とし、それを拾った稲本(フラム)が素早く久保へボールを出してから生まれた。久保はDFウイファルシをフェイントでかわしてボールをコントロールしながら、冷静にGKチェフの動きと位置を見極めてシュートを放った。
日本は、ボランチに小野(フェイエノールト)と稲本、トップ下にケガで不出場の中田(ボローニャ)に代わって元ユトレヒトの藤田が入って、ハンガリー戦に比べると、中盤に落ち着きと展開力があった。
FW久保と玉田も前線で積極的にプレスをかけ、スペースをつくり、ポストをこなした。特に、オフサイドになりながらも相手ゴール前に何度となく飛び出す動きを見せ、フィニッシュで終わらせるプレーを繰り返したおかげで、チームの意識が前へ向いた。2戦続けてFWが得点したことは、決定力不足に悩まされていた日本にとっては朗報だ。
ハンガリー戦ではセットプレーから2失点したが、この試合では危ない場面はあったものの、DF田中(磐田)をはじめ、身体を張って守り切った。田中は「ハンガリー戦からしっかり学習して、不用意なファウルは減らせた。2試合でいい結果が得られたと思う」と言い、小野は、「一人一人が勝つために何をすべきかが攻守でできた」と話した。
2点ビハインドで追いついたハンガリー戦に続いて、相手に追いつかれずに終えたあたりには、以前にはなかった精神面の強さを感じる。問題は、このメンタル・タフネスを試合が変わっても、メンバーが変わっても、チームとして出せるかということだろう。
「チームは確実に向上している。それが今日の試合に出た」とジーコ監督も、強豪国相手の勝利に手ごたえを感じている。
選手が宿題を片付けてくれたことで、監督も長い間抱えていた自分の宿題を片付けるきっかけを掴みかけているかもしれない。
「基本的に、欧州組のプレーの質が高いという考え方は変わらない」としながらも、「国内組と相当な資質の差があるわけではない。置かれている状況によるフィジカルコンディションの問題がある」と話し、コンディションと、チームとしてトレーニングする時間が欧州組より多いことから、「国内組のコンディションのよさを生かすのは非常に大きな戦術」と語った。若干ではあるが軌道修正を感じる発言だ。
これまで、欧州組であるというだけで自動的に先発の座が与えられ、その一方でコンディションが伴わずに起用が裏目に出ることがあった。ジーコ監督はチェコ戦で、欧州組+国内組のブレンド方式に新たなバランスを見出したのかもしれない。
ただ、ワールドカップ(W杯)予選では選手交替の人数は限られているので、この日のように後半6人も代えることはできない。選手のいい組み合わせをいくつか見つけることが必要だろう。
微妙な軌道修正が感じられた東欧遠征だが、ジーコ監督の欧州組+国内組の方程式の解読はまだまだ続く。
次のW杯予選は6月9日のホームでのインド戦。その前に、日本は5月30日にアイスランド、6月1日にイングランドとマンチェスターで対戦する。