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遠藤保仁 「そろそろガムシャラ!」
text by
藤沼正明Masaaki Fujinuma
posted2004/06/03 00:00
陰の存在から、閉塞状況を打破するキーマンへ。
遠藤は、もともと黒子に徹してきた選手ではなかった。鹿児島実業高校ではゲームメイカーとして中盤を自由に動き回り、攻撃を形作っていたし、プロとして最初に所属した横浜フリューゲルス(当時)時代には、いわばウイングとして攻撃的な役割を任された時期もある。ただ、ユース時代の同期に強力なライバルがいたため、周囲とのバランスを取ろうとしているうちに、ごく自然に現在のスタイルを身につけるようになった。Jリーグではともかく、こと代表に関するかぎり、“陰”の存在に徹することで周囲の信頼を勝ち取ってきたのだ。
遠藤の才能は、チームメイトの誰もが認めている。ただ、その役回りゆえに、称賛してくれる仲間ほど華やかなキャリアを、彼は持っていない。'99年のワールドユースには出場したものの、シドニー・オリンピックではバックアッププレイヤーになり、トゥルシエ監督の時代には、ついにAキャップを刻むことができなかった。小野、稲本、高原(直泰)など、'99年のワールドユース組を俗に黄金世代と呼ぶが、そのなかにあって遠藤は、不幸にも“地味な存在”にとどまってきた選手といえるだろう。
だが、ワールドカップのアジア予選がスタートしたいま、彼の置かれた状況はずいぶんと変ってきている。ジーコ監督のもと、日本は能力に富んだメンバーをスタメンにそろえてきたが、期待したほどには、成果が上がっていない。おりから海外組と国内組という構図で選手起用が議論されるなか、バイプレイヤーとして着々と評価を高めてきた遠藤は、現状を好転させるキーマンに浮上しつつある。つまり、代表の先発を勝ち取る好機が、彼にも訪れているのだ。
「どうしても出せ、とまではいえないっすけど、出してください! とはいつも思ってますよ(苦笑)」
やや控えめな言い回しになるのは、当該ポジションに自分も認めるライバルがいるからである。言うまでもなく、監督の信頼が厚い中田、中村、小野、稲本の4人だ。
「やっぱ最強の4人でしょう。ひとりひとりの個人的なレベルでいえば。まあ昔のことはよく知りませんけど、きっと日本代表で歴代最強の4人だと思いますよ」
だからこそ、と遠藤は続ける。
「ボクらは、監督をどんどん悩ませてやらなきゃって思いますね。監督が海外組を信頼する気持ちは分かります。でも、そこで国内組がアピールして、どんどん監督を悩ませる。そのうえで出てくる答えなら、みんな納得するでしょう。じつはそういった状況が理想で、監督もそうなってほしいと思ってるんじゃないかって感じますよ」
ベンチウォーマーからの脱却を望みつつ、それでいて先発の座を与えてくれないジーコに憤懣を抱かないのがなんとも面白い。
「最初から先発に決まってたら面白くないですしね」
(以下、Number603号へ)