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<モーグル界の新ヒロイン> 伊藤みき 「世界で一番楽しむために」 ~特集:バンクーバーに挑む~
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAtsushi Kimura
posted2010/01/02 08:00
多忙なスケジュールに振り回されず、自分を見失わず。
飛躍を遂げた伊藤は、'09年、大学最終年とともにオリンピックイヤーを迎えた。
オリンピックは特別な大会である。注目度がどの国際大会よりも増し、重圧もかかる。だからオリンピックイヤーそのものも、ほかの年と異なるシーズンと化す。伊藤にとっても例外ではなかった。昨シーズンの活躍があっただけに、出席しなければならない行事や取材が増えた。
「自分でも驚くくらい、周囲の反響が大きいから、めまぐるしい変化が日々あります。スケジュール帳も真っ黒で、しっかり計算しないと練習が危ないなと思うことは正直ありましたね。振り回されてるっていう感じかもしれません。どう消化していいか分からないことがいろいろあったので、思いつめることもありましたね。でも、死ぬわけじゃない、という言葉を思い出して、そこまで思いつめることもないなと、思えるようになりました」
教育実習で気づいた、コーチと選手の意思疎通の取り方。
加えて、大学4年生ならではの忙しさも加わった。将来、体育教師を志している伊藤は、高校での教育実習もこなさなければいけなかった。
「練習があまりできなかったので、そういう点では痛かったですね。でも、実習中は生徒の成長が一番重要だったので、自分の練習をおいたとしても大切にしないといけないですから」
競技には集中したい。しかし、教師もまた将来の夢であり、目の前にいる生徒をおろそかにはできない。誠実であればあるだけ、苦労も生じた。
とはいえ、実習を負の面ばかりでは捉えていない。学んだことも少なくはなかった。
「学校は先生だけじゃ成り立たないし、生徒だけでも成り立たない。先生が教えることに生徒が応える、反対に生徒が言うことに先生が耳を傾けて、一緒に作られていく環境が学校だと思うんです。コーチと選手の関係も一緒で、コーチが言ったことをただやるというのは違うなと気づきました。私がヤンネ(・ラハテラ、日本代表チーフコーチ)さんや高野(弥寸志、同ヘッドコーチ)さんに教わるときも、ちゃんと自分の意志を伝えれば私の気持ちも分かってくれて、コーチングというものが成立するんだなと思ったんです。これからは積極的に自分の思ったことを言おうと思いました」