Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
<モーグル界の新ヒロイン> 伊藤みき 「世界で一番楽しむために」 ~特集:バンクーバーに挑む~
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAtsushi Kimura
posted2010/01/02 08:00
世界選手権では世界最速の上村愛子からリードを奪った。
そして、3月の世界選手権である。
シングルで4位に終わった翌日のデュアルモーグル。五輪種目ではないが、表彰台に上がれば、五輪代表に内定することになっていた。初戦から順調に勝ち上がった伊藤は、準決勝で里谷多英を破り、決勝で上村愛子と対戦する。
ゲートが開き、両者スタートすると、どよめきが起こる。世界最速のスピードを誇る上村から、伊藤がリードを奪ったのだ。普段の柔らかい、穏やかな表情とは打って変わった気迫が、ゴーグル越しにうかがえる。
だが、コース中盤からの上村の加速は凄まじかった。逆転。伊藤は抜き返すことはできず、上村に遅れてゴール。結果は2位。
「自分の滑りができたのは褒めてもいいかなと思ったし、表彰台に上れたのはうれしかったです。やっぱり一番になりたかったので悔しい気持ちもありましたけれど」
敗れはしたが、自身初の世界選手権でのメダル獲得は、上村愛子に続き、五輪代表内定をもたらした。
一歩ずつ上ってきた伊藤にとって、昨シーズンは、一挙に躍進した一年であった。
「愛子さんの引き立て役でスキーをやっているわけじゃない」
何がそれを可能にしたのか、自らこう分析する。
「トータルでシーズンを考えられるようになったのが大きかったです。世界選手権だけじゃなく、その前のワールドカップ、シーズン前、それぞれどういう状態にいればよいのか、その時期に何が必要なのかを逆算して取り組めたのが違ったと思います。それと、一昨年のシーズン、愛子さんが総合優勝したおかげで、日本人でもできるんだと知って、私もがんばりたいと思ったのも大きかったかもしれないです」
上村の活躍による影響はそれだけではなかった。
「愛子さんが総合優勝したあとのことなんですけど、周りの人から『愛子さんはどういう先輩ですか』とよく聞かれたり、『上村選手についてひと言聞かせてください』というような取材もあって、私も競技者なのに、自分が情けなくて。引き立て役でスキーをやっているわけじゃないという感情があったのも、結果を残したいなと思うきっかけだったかもしれないです」
負けず嫌いの真骨頂である。