ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
フェザー級の適性に疑問符も……。
王座陥落の長谷川穂積、復活の条件。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byYusuke Nakanishi/AFLO
posted2011/04/11 11:53
フェザー級の上下の階級にはWBA、WBCともに日本人王者がいるため、長谷川が階級を再び変えることは無いと予想されている。真正ジムの山下正人会長は「これじゃ終われへんやろ。完全に負けたという試合ではないし、年齢的なものも気にならない」と発言
長谷川が原点回帰に失敗したのはなぜなのか?
試合後、ゴンサレスは次のようにコメントしている。
「打ち合ってくれるのは望むところだった。私の方がパンチが強く、打ち合えば私の方が強い。長谷川はそれほどパンチがあるわけではない。むしろリングを大きく使い、足を使ってファイトされたら嫌だった」
フィニッシュの場面は、クロスレンジでの打撃戦でなかったとはいえ、リスクの高い好戦的な姿勢が招いた結末に違いない。攻め急いで前に出ようとした瞬間、必然的に食らったカウンターパンチだったのである。
ではなぜ、長谷川は原点回帰に失敗したのか。理由を一つに絞り込むのは難しいが、いくつかの仮説は成り立つ。
長谷川は防衛を重ねながら、派手な試合を志向していった。
長谷川がバンタム級王者となったのは'05年4月だ。ここまでの戦績が19戦17勝(5KO)2敗。世界戦の戦績は13戦12勝(7KO)で、飛躍的にKO率が上がっている。対戦相手のレベルが上がれば上がるほどKOは難しくなるのが常識だから、これは脅威的な変化である。
KO率の増加には様々な理由が考えられる。
世界王者となって注目度が上がった。ならばよりファンを意識した派手な試合をしなければならない。責任感の人一倍強い長谷川はそう意識したはずだ。バンタム級では減量が苦しく「足が動かない」とよく口にしていた事実から推測すると、実は動きたくても動けず、足を止めて打ち合うスタイルを選択せざるを得なかった、という見方もできなくはない。
どのような背景であれ、長谷川は防衛を重ねながら、よりスリリングな、よりリスクの高いボクシングにシフトし、しかも堂々と結果を残した。試合を目にした人々に興奮と感動を与え、人気もぐんぐん上昇した。こうして得られた成功体験に、頭ではなく、体が縛られてしまった。そう考えることはできないだろうか。
加えてこの日の興行では、世界王者の粟生隆寛、西岡利晃がともにKOで防衛を果たした。大トリを務める長谷川に無言のプレッシャーも与えたに違いない。
いずれにせよ、はっきりした結論は一つだ。今のままの長谷川では、世界のフェザー級戦線でトップに立つのは苦しい、という事実である。