ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
フェザー級の適性に疑問符も……。
王座陥落の長谷川穂積、復活の条件。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byYusuke Nakanishi/AFLO
posted2011/04/11 11:53
フェザー級の上下の階級にはWBA、WBCともに日本人王者がいるため、長谷川が階級を再び変えることは無いと予想されている。真正ジムの山下正人会長は「これじゃ終われへんやろ。完全に負けたという試合ではないし、年齢的なものも気にならない」と発言
長谷川穂積が負けた。
WBC世界フェザー級タイトルマッチ。4月8日、満員で埋め尽くされた神戸ワールド記念ホールは水を打ったように静まり返った。
テレビ観戦していた全国の視聴者もリビングルームで絶句したに違いない。バンタム級で10度の防衛を記録し、2階級制覇も成し遂げたあのチャンピオンが、挑戦者ジョニー・ゴンサレスのたった一発で沈んだのだ。稀代のサウスポーは、なぜ敗れてしまったのだろうか─―。
話は少しさかのぼる。
長谷川がWBC世界バンタム級王座から陥落したのはちょうど1年前だった。WBO王者、フェルナンド・モンティエルとの一戦は、4回の左フックが致命傷となって敗れた。この試合、ボクシングファンにとってショッキングな結末だったとはいえ、長谷川が3回までリードしていたこともあり、どこか「事故」というイメージが強く残った。この時点でV10王者の評価が揺らぐことはまったくなかった。
ゴンサレス戦はアウトボクシングへの原点回帰のはずだったが……。
一抹の不安が芽生えたのは昨年11月。
階級を一気に2つ上げ、2階級制覇に挑んだファン・カルロス・ブルゴスとのタイトルマッチである。この試合、長谷川は危険を顧みずに真っ向勝負を挑み、タフなブルゴスに打ち勝ってタイトルを獲得した。
勇敢なファイトスタイルに拍手を送るファンは少なからずいた。しかし、長谷川は元々、派手な打ち合いやKOとは縁の薄い、テクニックに長けた玄人好みのボクサーである。その能力と階級アップの危険性を計算すれば、慎重にフットワークを使い、かつて得意としていたヒット・アンド・アウェイに徹するべきではなかったのか。そんな疑問を強く抱いた試合だった。
バンタム級タイトルを手放した失意。最愛の母親を失った悲しみ。見ようによっては無謀とも呼べるボクシングを選択した理由は、本人にしか分からない。ただ少なくとも長谷川はブルゴス戦のようなファイトを「今回限り」と強く否定し、ゴンサレス戦を前にして次のように語っていた。
「今度は自分のボクシング、テクニック主体の美しいボクシングをします」(ボクシング・マガジン4月号)
つまりは、いたずらに打撃戦を演じず、ノックアウトにもこだわらず、スピードを生かしたアウトボクシングでポイントを重ね、確実に勝利を手にするのだと。長谷川自身がブルゴス戦を反省し「原点回帰」を心に誓っていたのだ。
ところが蓋をあけてみれば、事前に描いていたプランは水泡に帰した。
強打のメキシカンを相手に足を止め、打撃戦を演じる場面を少なからず作ってしまったでのある。