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「安納サオリ、しょうもないな」中野たむの“敗者引退マッチ”を前に、人気レスラーが明かした“危機感”「世間の声って厳しい。それでもたむは…」
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橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2025/04/24 11:05

4月2日、シングルマッチを行った安納サオリと中野たむ
「世間の声って厳しい。それでもたむは…」
ただ、実際に対戦してみた中野たむは“引退目前”のようには思えなかったという。
「噂には聞いてましたよ、“中野たむのエルボーはえげつないぞ”って。“これか”って思いました。たむはキャリアの初期、私とやったデビュー戦をベストバウトだと言ってたんです。“安納サオリに(力を)引き出してもらった”って。今回はお互いに引き出し合いましたね。“中野たむの闘い”をしっかり感じることができました。これを味わって、みんな狂ったようにたむとの闘いにのめり込むんだなって」
試合はたむの勝利。フィニッシュとなった最大の必殺技トワイライト・ドリームだけでなく、情念むき出しの攻撃が目立った。それをノーガードで受けまくる安納のタフさも光る。試合後、マイクを握った安納は「中野たむは強い!」と言葉に力を込めた。
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「闘ってみて分かりました。たむは横浜アリーナでも負けないでしょうね。もちろん試合だから勝つか負けるかのどっちか。不安もありますよ。でも中野たむはしぶといんです。上谷も強いけど、たむはしぶとい。なんでしょうねあれは。ダテに茨の道を歩んできてないなと」
インタビュースペースでの安納は、たむを「デビューの頃から悔しいくらいに注目を浴びる子」と評してもいる。大仁田厚との電流爆破マッチ、アクトレスガールズ退団とスターダム参戦。自身のユニット・コズエンを結成してスターダム正規軍のSTARSを離脱したことも。
さらにジュリアとの敗者髪切りマッチ、そして今回の敗者退団マッチ→敗者引退マッチ。たむはキャリアの中で何度も物議を醸し、批判され、しかし結果としてその存在を大きなものにしている。
「やっぱり芯の強さが凄い。世間の声って厳しいし、いろんなこと言われて、それが本人にも聞こえてると思います。それでもたむは自分をさらけ出して、話題を提供している。見習わなくちゃいけないですね、あの強さは」
「安納サオリ、しょうもないな」明かした本音
安納自身も、今まさに転機を迎えようとしている。いや「迎える」のではなく、転機を作らなくてはいけないと考えている。
フリーとしてスターダムに上がるようになってから2年。昨年春に専属契約を結び“スターダムの安納サオリ”になった。“白いベルト”ワンダー・オブ・スターダムの王者になるなどトップ戦線で活躍している。けれど安納は現状をこう表現するのだ。
「自分がつまらないですね。“安納サオリ、しょうもないな”って。去年の後半くらいから感じてます。白いベルトを落としたのは関係ないんですけど。いろんなチャンスがあるにもかかわらず、何も残せてない、何も届けることができていない。落ち込みますね。こうやって取材していただくのも久しぶりじゃないですか。それは私が話題を提供できていないからで」
もちろんタイミングというものもある。プロレスに“無敵の王者”はいないと言っていい。勝ったり負けたりしながらドラマを紡いでいくのがプロレスラーだ。ただ「今は自分のタイミングじゃない」と割り切ってしまったら、2度と上には行けないと安納は考えている。少なくとも、そういう考え方でここまできた。
「何かしなくちゃいけない。でもどうすればいいのか分からない。ずっともがいてましたね。もがかなかったら埋もれるだけ」