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「安納サオリ、しょうもないな」中野たむの“敗者引退マッチ”を前に、人気レスラーが明かした“危機感”「世間の声って厳しい。それでもたむは…」
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橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2025/04/24 11:05
4月2日、シングルマッチを行った安納サオリと中野たむ
安納が語る“危機感”の正体
スターダム入りする前から参戦しているOZアカデミーでは、4月13日の大会でシングル王者に。これでアクトレスガールズ、アイスリボン、センダイガールズ、OZと団体トップのシングルベルトを4本巻いたことになる。
ただOZに関してはキャリアの中で“別枠”の活動という感覚もあるそうだ。やはり本筋としては「スターダムでの安納のあり方を考えないと」。
さらにこう付け加える安納。危機感は相当なものだ。
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「5月でデビュー10周年ですしね。もう今までの延長線上では通用しない。飽きられてるのは分かってるので。分かってるなら変えないと。動かなきゃいけないですね、私も」
たむと上谷の敗者引退マッチが賛否両論を巻き起こしたことは、プロレスについてあらためて考えるきっかけにもなったという。だからこそ、自分が10周年をどう迎えるかも意識する。
「敗者引退マッチは、中野たむか上谷沙弥のどちらかが引退することになる。どっちも引退しないとか、どっちも引退とかはないですよね。それは本人にとってプロレスラーとして終わるか終わらないか、生きるか死ぬかということ。“自分にそれができるだろうか”って考えちゃいましたね。“引退をかけて闘おう”って言えるかどうか。まだその決断はできないと思います」
「リスクのある決断をした中野たむを支えます」
批判の声も大きいが、本人たちが生半可な決意ではないのは間違いない。プロレスラーだからそれが分かる。一方で、安納にはファンの気持ちも分かる。
「私も“推し”グループ(BE:FIRST)がいるので。もし、推しが“次のライブで解散するかもしれません”、“もしかするとしないかもしれません”なんて言い出したら……。もう気が気じゃないですよ。不安で寂しくて、そんなことやめてくれってなる。考えただけで泣きそうですもん。だからたむのファン、上谷のファンの気持ちも分かるんです。
選手としての気持ちとファンとしての気持ちで矛盾が出てきちゃうんですけど、どっちも本音です。どっちの立場からも言えるのは、見逃しちゃいけないってことでしょうね。試合を見たら、2人の思いとか決意が伝わると思います。ましてどちらかの選手が終わりの時を迎えるんだから、絶対に見逃せない。後悔しないように。それに尽きるんじゃないですか。私もそうするし、リスクのある決断をした中野たむを支えます。今あの子が背負ってるものを、少しでも一緒に背負いたい」
推しのライブを見に行ったら、間違いなく幸せになれる。「でもプロレスは違うんですよね」と安納。
「勝ち負けがある以上、負けた選手のファンは悲しいですよね。プロレスのイベントは、全員が幸せになって帰れるものではないんだなって。それを最近、凄く思うんですよ。横浜アリーナでは、最高のハッピーエンドと最悪のバッドエンドが同時に起きる。たぶんそれがプロレスなんです」
そして大会の翌日からは、上谷沙弥と中野たむのどちらかがいないスターダムが始まる。結末はどうなるか分からないが、安納が信じるのは勝った中野たむと「頂点で会う」ことだ。


