第101回箱根駅伝出場校紹介BACK NUMBER
〈日本大学〉日本人エースの称号は「正直、好きじゃないですね」安藤風羽(4年)が箱根駅伝で体現する本物のエースの走り
posted2024/12/13 10:01
text by
田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph by
JIJI PRESS
『本当のエースになれない』という苦悩は、過去のエースたちも味わってきた。日本大学陸上競技部には、必ず強力な留学生が控えているからである。だから、必ずエースには“日本人”という枕詞が付く。
「正直、好きじゃないですね」
冗談めかしながらもしっかり意思を表明するのは、4年生の安藤風羽。前回大会で3区を任され、初の箱根駅伝ながら「すごく楽しかったです」と強心臓ぶりを見せて区間4位の好走でチーム順位も4つ押し上げた。その後も好調は続き、2月の香川丸亀国際ハーフマラソンでは63分12秒を記録。チーム内ではシャドラック・キップケメイ(2年)に次いで2番目のタイムを保持することとなり、名実ともに“日本人”エースとなった。
「ただ、嫌だとかではないです。シャディ(キップケメイの愛称)のことはすごく信頼していますし、留学生だけじゃない、というところを見せたいという思いもある。お互いに刺激をし合える存在だと思っています」
過去の留学生の多くとは違い、キップケメイは文理学部に籍を置く。桜上水にある寮でほかの部員たちと生活し、練習も同じ。日本語も積極的に学び、選手たちともコミュニケーションを取っている。
「シャディはとても努力家で日本人くさいところがあります。お風呂場とかでもよく話しますよ」という安藤の言葉どおり、チームメイト間の距離は近い。
刺激し合うふたりのエース
安藤がキップケメイに刺激を大きく受けた試合が、前回の箱根駅伝だ。キップケメイは初の箱根駅伝で緊張し、さらに慣れない寒さで調子を崩し、思うような走りができなかった。周りからはそう見えていたが、安藤の目には違う姿が映っていた。
「途中で気持ちが切れて、諦めてもいい場面がたくさんあったと思うんです。でも、シャディは我慢して走り切りました。苦しいなかでも、諦めない気持ちを見せてくれた。だから僕も頑張ろうって思えるんです」
そして、安藤はこうも付け加えた。
「実は前回大会で一番うれしかったのは、シャディに区間順位で勝てたことです」
留学生と比べると、記録の面では大きく後れを取ってしまうことは事実。ハーフマラソンの記録も安藤は63分12秒だが、キップケメイは60分16秒。10000mにいたっては、安藤は12月の日本体育大学長距離競技会で約1年ぶりとなる自己新記録28分38秒82をマークするも、キップケメイとは1分以上の差がある。
だが、箱根駅伝は記録だけで比較できるものではない。それぞれの区間で距離もコースも違うなか、チームの総合成績に関わるという面でいえば、区間順位は個人成績において非常にプライオリティが高い。