第101回箱根駅伝(2025)BACK NUMBER
特等席で箱根駅伝を見続ける日本テレビ平川アナウンサーと蛯原アナウンサー。彼らが伝えたい、箱根駅伝中継の面白さと第101回大会の展望
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byShiro Miyake
posted2024/12/05 12:50
日本テレビ 平川健太郎アナウンサー(左)、蛯原哲アナウンサー
蛯原 太田(蒼生)選手ですよ。遊行寺の坂を下って、7kmくらいだったと思うんですけど、トラックの持ちタイムでは及ばない太田選手がぐんぐん迫ってくる。まさか追いつくのか。追いついた! もう本当に驚いて、思わずテンションが上がりました。
平川 でも後から振り返ると、青学大の1区は区間9位だったけど先頭から35秒差に収めていた。そして2区で差を詰めている。先頭から遠くない位置で太田選手にたすきが渡ったのが大きかったのかなと思いますね。
蛯原 陸上競技ってタイムが大事ですが、数字で計れないものがやっぱりあるんだなって。しかも終盤、太田君の方が突き放すんです。サングラスを上げて、さあ行くぞと。あの3区の激闘を目の前で見られた。アナウンサー人生も28年目ですけど、指折りの光景に出会えたという幸せを感じましたね。1号車はそんな特等席でもあるので。
平川 まさに現場ならではのシーンだね。放送センターは移動車の映像をモニターで見ながら、どう取捨選択してレースを伝えるかをつねに考えています。自分が喋るというよりは、他のアナウンサーや解説・ゲストの方に気持ち良く話してもらうよう努めるのが役目ですね。喩えるなら放送センターが指揮者で全体をまとめ、実況アナウンサーたちが現場でさまざまな言葉を奏でる、という感じでしょうか。
取材したからこそ出てくる言葉
蛯原 そういえば前回、芦ノ湖に着いたときに、かつて箱根駅伝のディレクターだった大先輩から「箱根駅伝に愛された男」って表現を褒めていただきました。太田選手のことをそう言っていたみたいで、あれは思わず出た言葉なんですね。彼は本当に箱根駅伝に強くて、1年目も2年目も、私の目の前に先頭で現れたんです。あの東海道で、お正月に会うべき人に出会えた。そんな感情が出たんだと思いますね。
平川 蛯原君の言葉でいうと、2年前の実況も印象深いです。やはり青学大に岸本(大紀)君という選手がいて、彼が第98回大会で7区を走った際に「故郷の新潟も今日は雪でしょうか」という実況をしたんです。あくまで想定の話だと思うけど、その言葉を聞いたときに岸本君が育ってきた環境がイメージできました。すごくシンプルな言葉だけど、選手のことを伝える上で「仲間」と「故郷」はとても大事なキーワードだと思いますね。
蛯原 恐縮です。彼は1年生の時に2区を走って、当時、1年生としては2区歴代トップタイムで走った。でも、2年目はケガの影響で走れなかったんです。彼には1年生の時に直接取材しました。そしてこの年、故郷が新潟で、おじいちゃん、おばあちゃんに励まされたって話を聞いていた。往路を終えてトップは青学大。復路で7区を走るのは岸本君か。天気予報を確認すると、1月3日の新潟の予報は雪。9時過ぎならまだ雪は降っているだろう。そんな準備をしていたから出た言葉でしたね。
平川 なにか印象に残ることを言おうと、狙って発する言葉遊びはダメだと思いますね。選手を取材したり、関係者から話を聞いたりして、自然と出てきた言葉だからこそ印象に残るものだと思います。