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永瀬拓矢32歳、70分超の電話取材で本音を思わず口に…「藤井(聡太)さんを人間として見てはいけないんです」「これが最後かもしれませんよ」
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byShintaro Okawa
posted2024/09/26 06:05
王座戦第2局終局直後の一コマ。藤井聡太七冠との感想戦で表情を崩す永瀬拓矢九段
「タイトルを獲得した棋士が満足してしまい、モチベーションが減退してその後、活躍できなくなるような感じでしょうか。今の自分はハングリーな気持ちが明らかに足りない。現状に満足してしまうのがまさに人間なので、人間の面を捨てなきゃいけないんです」
具体的にはどうするのか。休みなく、1日10時間近いという将棋の勉強時間を増やすのか。本当にそんなことができるのか。
「多分、勉強時間はこれ以上、増やせないと思います。大事なのは、漆黒の世界で生きていく覚悟をすることでしょうね。私は覚悟ができている時はいい将棋を指せていると思っています。言い方が正しいかはわからないですけど、『今日死んでもいい』という気持ちで将棋を指せているかどうか。今日で人生が終わるならば、全部を出し切るでしょう。でも今日の私はそういう気持ちで将棋を指せていなかったんです」
言いたいことはわかる。私だって、この原稿が最後というのであれば、すべてを出し切ろうとするだろう。だが毎回そんな気持ちでパソコンに向かっていたらとても持たない。
ロングインタビュー、最後かもしれませんよ
遠くで救急車のサイレンが鳴っていた。永瀬の痛切な話に相槌を打っているうちに、息苦しさを覚えるようになっていた。
その覚悟をしたら、永瀬さんにはどんな変化が訪れるのでしょうか。私はスマホ越しの相手にそう問うた。
すると永瀬は「どうなんでしょうね」と呟くように言ってから言葉を続けた。
「その漆黒の世界というのは、言葉を捨てるイメージなんです。私はこれまで言葉を獲得することに自分の資源を使ってきました。これってまさに人間的なことなんです。少し前に受けた『将棋世界』のインタビューは、自分の人間らしさがよく出ていたのかなと思います。嘘偽りはなくて自分の本心で話したことですけど、今後はその部分は捨て切らないといけないと今日、痛感しました。言葉が必要なければその資源を別のこと、つまり将棋に回せるでしょう。だから棋戦の主催紙などの取材を除いて、ロングインタビューなどを受けるのはこれが最後になるかもしれませんよ。ハハハ」
すべてを出し切る気持ちで毎日を生きるしか
言葉を捨てる? コトバヲステル? 永瀬の最後の口調は明るかったが、それとは裏腹に私の心は沈んでいた。取材を受けないかもしれないと言われたことではない。言葉を獲得することで、人間は人間になっていった。それを捨てるとはどういうことなのか。修羅の道であることだけはわかった。
この独白をこれ以上聞き続けるのは簡単ではない。永瀬と話していてそんなことを思ったのは初めてだった。取材を切り上げればよかったのだろうが、それもできなかった。
私は話題を変えることで逃げた。