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宇野昌磨、“現役最後の1日”を語る「朝ごはんは…食べたと思います」演技を終えた瞬間の“笑顔の理由”とは?「あの表情を僕はできたんだな」  

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野口美惠

野口美惠Yoshie Noguchi

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photograph byTomohiko Imai

posted2024/07/05 18:00

宇野昌磨、“現役最後の1日”を語る「朝ごはんは…食べたと思います」演技を終えた瞬間の“笑顔の理由”とは?「あの表情を僕はできたんだな」 <Number Web> photograph by Tomohiko Imai

現役最後の試合となったフィギュアスケート世界選手権の1日を振り返った宇野昌磨

「あの表情を『僕はできたんだな』と改めて思いました。僕としては、『ベストの練習をしてきた上で良くない試合をした』ときに、自分がどんな心境になるのか興味がありました。『本当に僕は自分を受け入れられるのかな?』と。そして今回は『本当に受け入れられるんだな』ということが分かりました。今後何をするにしても、結果も大事ですが、その過程も同じくらい大切にしていきたいと思いました」

 すべてを受け入れているからこその表情。記者のインタビューを受けている間も、悔しさよりも、納得した様子で苦笑いしながら、淡々と自分の演技を振り返った。これが最後とは感じさせない、肩の力が抜けた表情だった。

 しかし、その笑顔も、廊下で待っていたステファン・ランビエルコーチを見た途端に、崩れた。ハグをすると、自然と涙が頬を伝った。

「演技を悔やんでいる涙じゃなくて、ステファンに感謝という気持ちの涙です。『僕がいま泣いているのは、演技が悔しかったからではないし、最善だと思う選択をしてきたと思ってる。ステファンに感謝してる』ということを伝えました。2人で、色々なことを振り返りながら涙していました」

 改めてその瞬間をこう振り返る。

「僕がスケートのことで涙するのは、とても珍しいこと。子どもの時は別ですが、シニアに上がってから泣いたのは、コーチ不在で2019年フランス杯で8位になった、あのときだけ。そういった意味で、世界選手権は僕にとって大きな大会でした」

満足しきれない最後の試合が、今後に繋がる

 ホテルの部屋に戻ったのは12時過ぎ。21年の競技生活を終え、ひとりの夜を迎えた。

「もっと良い演技をしたかったという気持ちはあったので、気持ちの持って行き方によっては悔しがることもできました。でも最後の日に、わざわざマイナスな方向に気持ちを持っていく必要はない、なるべくプラスでいたいな、と思いました」

 自分の気持ちをプラスに持っていけるかどうかは、自分次第。そのことを21年の競技生活を通じて、宇野は学び取っていた。

「結果としてはダメな演技でしたけど、それもまた、今後のプロスケーターとしての人生に繋がるかなって。プラスに考えすぎかもしれませんが。満足しきれない最後の試合というのが、次の何かをやる時に『ここでもうちょっと頑張ろう』と思えるかなと。悔しい経験があってこそ、人は頑張れると思いました」

 満足しきれない最後の試合。そう自分に告白することで、ほのかな苦みを噛みしめる。その味を忘れないように、次の人生の輝きに繋げられるように。プラスな気持ちで心を満たしながら、眠りについた。

【動画を見る】「宇野昌磨 現役最後の日の24時間をどう過ごした?」はNumberYouTubeのアスリートインタビューシリーズ「CONNECTORS」でご覧いただけます。世界フィギュアスケート選手権男子フリーの日の24時間を追った「マッチデイ」の他に、5月某日、引退発表後のある「オフの日」の過ごし方も公開。ある才能が明かされます。

NumberYouTubeのアスリートインタビューシリーズ「宇野昌磨 現役最後の日の24時間をどう過ごした?」はこちらからご覧になれます

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