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宇野昌磨、“現役最後の1日”を語る「朝ごはんは…食べたと思います」演技を終えた瞬間の“笑顔の理由”とは?「あの表情を僕はできたんだな」  

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野口美惠

野口美惠Yoshie Noguchi

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photograph byTomohiko Imai

posted2024/07/05 18:00

宇野昌磨、“現役最後の1日”を語る「朝ごはんは…食べたと思います」演技を終えた瞬間の“笑顔の理由”とは?「あの表情を僕はできたんだな」 <Number Web> photograph by Tomohiko Imai

現役最後の試合となったフィギュアスケート世界選手権の1日を振り返った宇野昌磨

「本番の日にリラックスして適当に過ごせるのは、その日まで『ベストだな』と思える練習をしているからです。特に今回は、最後の試合ということで、どうするのが最善か色々と考えて準備してきていました。そして、考えすぎて悪い方に出たとしても『それはそれで受け入れます』という準備もありました。過去にもたくさん悪い試合を経験しましたが、その悪い経験が次の成功に繋がったなと思うことが多いです。なければよかったという失敗は一つもありません。そういった意味で、すべての気持ちの準備ができていました」

 考え尽くした練習を重ね、さらに、失敗したとしても受け入れる心の準備もできている。彼らしい心の柔らかさで、本番への時間を過ごしていた。そして午後7時頃、選手用のバスでホテルからリンクへと向かう。こうやってバスに揺られて試合に向かうのも、この日が最後である。

「バスの中で『ショートはすごく上手く行ったな』と期待しつつ、『フリーはそんなに甘くないか』と思っていました」

他の選手の演技を見ながらアップ

 会場に着いてからは、他の選手の演技を見る。ライバルの演技を見ると緊張する選手が多いが、宇野は違う。

「今回も、他の選手の演技を見ながらアップしました。僕は『本番での結果が良くても悪くても、どちらでも受け入れる』『悪くても、それを後で成功に繋げられる』という考え方でスケートをやってきました。その考え方ができるようになってからは、他の選手の演技を見ても試合で緊張しなくなったんです」

 緊張はなかった。しかし、6分間練習では調子が上がらなかった。特に、靴紐の締め方には、いつも以上に敏感になっていた。

「ショートの日は、右足を固く締めすぎていたのに、すごく良い4回転フリップを跳べたので『固くても良かったんだな』と思っていました。フリーの日は、左足の紐を固く締めすぎていたのですが『固くてもショートは良かったな』と思って、そのまま本番も滑ることにしました」

 そして現役最後の演技「Timelapse」のメロディが流れる。静けさのなかに溶け込んでいくように、滑り出した。

「始まった瞬間、足が思うように動かず『これは失敗したな』と。4回転ループで転んで『やっぱりね』、4回転フリップでステップアウトして『そりゃあ無理だよね』と。優勝はないなと思いましたが、最後まで投げ出さないように、と思いました」

   ふと、これが競技生活最後の演技であることが、頭をよぎる。

「小さいころから、『引退をきめた選手達が、最後の試合で良い演技で終わることが多いのはなぜだろう、そのメンタルは凄いな、何か理由がるのかな』と思っていました。でも自分は全然上手く行かないから『聞いてた話と違うなあ』なんて思いながら滑っていました」

今回は「本当に受け入れられるんだな」と…

 さまざまな思いが駆け巡った4分間。演技を終えた瞬間、すがすがしい笑顔が自然にこぼれた。

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