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藤井聡太が口にした冗談「詰将棋を解くスピードが衰えた」…「タイトル戦の前日でも延々と研究」師匠・杉本昌隆が解説する「八冠の集中力の構造」
posted2023/12/23 06:05
text by
杉本昌隆Masataka Sugimoto
photograph by
Keiji Ishikawa
今年10月、将棋のタイトル八冠すべてを手中に収めた藤井聡太。師匠・杉本昌隆は弟子の「集中力」をどう見ているのか。著書『藤井聡太は、こう考える』(PHP研究所)より抜粋して紹介する。(全6回の5回目/初回は#1へ)
棋士の衰えについて
いくら高い能力、集中力をもち合わせた棋士であっても、加齢とともに少しずつ衰えていくのが実情です。
技術的な面でいうと、そのピークは二十代半ばともいわれているのが将棋の世界です。四十代、五十代と年を重ねるにつれて、自分の全盛期よりは衰えていくという見方は正しいでしょう。逆にいうと、まったく衰えないものであるならば、それは生物学的にも、たぶんおかしいはずです。その点では、将棋はスポーツのような、フィジカルが第一になる分野とも似ています。
そして衰えは、トップクラス同士の戦いになればなるほど、顕著になるものです。高いレベルで競い合うほど、紙一重の差が結果に色濃く出てしまうからです。
逆に、勝率五割ぐらいの人の衰えは、傍目には気がつきにくいものだと思います。勝率三割の人だったら、もっと気がつきにくい。勝率が上がれば上がるほど、わずかな手の見えなさ、閃く時間が遅くなっていることが結果に出てしまう。
そういう意味で、羽生善治九段は素晴らしい。正直にいうと、五十代というのはトップ棋士としては大変になる一方の年齢であるわけですが、それでいながらトップクラスの力を維持されているのは大変素晴らしいと思います。
詰将棋を解く能力は十代後半がピーク?
棋士の衰え方というのも、やはり個人差が大きく一概にはいえませんが、一般的には読みのスピードと深さが衰えていきます。例えば、詰将棋を解く能力は、若い人のほうが速いといわれています。