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「清原以外はふつう。でも力がすごかった」PL学園・清原和博と桑田真澄“KKコンビの戦慄” 高校野球史に残る伝説の3年間はこうして始まった
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byKatsuro Okazawa/AFLO
posted2023/12/12 11:00
PL学園時代(高1)の清原和博と桑田真澄
「それ以前に、この試合みたいに打ち込まれたことがありました」
先発した津野がふり返る。
「新チームになってすぐ、池田との練習試合のときです。確かふたケタ失点でした。でも、 このときのPLに池田みたいに打ち込まれるとは思いませんでした。どこに投げても打た れる感じでしたね。特に、二塁打をたくさん打たれたのを覚えています。外野の間を抜か れました。池田はガッチリした迫力のある体型の選手が多かったですが、PLは清原以外は見かけはふつう。でも力はすごかったです」
4回は無失点だったが、5回表、さらに1点を追加される。8点取られて高知商は目が覚めた。5回裏から、猛然と追撃を開始する。6安打を集中させて5点を奪い、桑田をマウンドから引きずりおろす。6回表、2点を追加されたが、その裏には津野の2試合連続本塁打などで1点差に追い上げた。8点差を1点差まで追い上げたのだから、勢いは間違いなく追いかけるほうにある。相手エースの桑田は降板している。
「これは勝てる。そう思って欲が出ました」
監督の谷脇がいうように、高知商の選手たちは気負いこんで攻め立てるが、ここからのPLは青くて酸っぱい若いチームではなかった。しぶとく辛抱強く高知商の攻撃をしのぎ、逆転どころか同点さえも許さない。
「あまりにいい球だったので、何度か夢に見ました」
9回裏、津野に打席が回った。3回戦の箕島戦では、のちのメジャーリーガー、吉井理人から満塁本塁打を打っている。この試合2本目の本塁打が出れば同点に追いつく。
「前の本塁打がストレートを打ったものだったので、“今度は変化球で勝負するだろう。変化球を意識しろ”といわれました。ところが、2球目に打てばスタンドまで行きそうな甘いストレートが来て、それを見逃してしまった。あんまりいい球だったので、あとで何度か夢に見ました」
津野の裏をかいて甘いストレートで追い込む。この打席を見てもPLは、大会前のけなげにがんばる若いチームではなくなっていた。甲子園での試合経験が果実の糖度を見る見るうちに高めていたのだ。結局、高知商の追撃は及ばず、PLが準決勝に進出する。
準決勝には池田が待ち受けていた。健闘もここまでと思われたPLは、大本命を桑田の本塁打などで圧倒し、決勝に勝ち進む。横浜商業との決勝に並んだときの顔は、すでに王者の顔だった。伝説的な3年間が幕を開けた。
<続く>