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「子どもたちには申し訳ないことを」テレビ密着取材を受けた“少年野球カリスマ”が戦術を口にしなかった理由「相手を傷つけたくないですから」 

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間淳

間淳Jun Aida

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photograph byJun Aida

posted2023/10/04 11:02

「子どもたちには申し訳ないことを」テレビ密着取材を受けた“少年野球カリスマ”が戦術を口にしなかった理由「相手を傷つけたくないですから」<Number Web> photograph by Jun Aida

辻正人監督が率いる「多賀少年野球クラブ」は野球界の常識を覆しながら強くなろうと奮闘している

 1カ月に渡り、カメラに追われた。取材自体には慣れていたものの、密着は勝手が違った。想定外だったのは試合中の取材だった。練習試合ではピンマイクを付け、公式戦はベンチ裏で声が拾われる。当然、選手との戦術面の話し合いも全て録音されている。辻監督が回想する。

「戦術に関する話は、必ず相手チームの内容が入っています。例えば、相手チームのキャッチボールやノックを見て肩が強くない選手がいたら、私たちのチームの走塁が変わってきます。その時に、『あのポジションの選手は肩が強くない』という発言を番組で使われて、その選手が放送を見たら傷つくかもしれません。同じ野球人として、相手を傷つけたくはありません。だから、戦術に関して何も言えませんでした」

子どもたちに申し訳ないことをしてしまいました

 密着取材は7月中旬から8月中旬にかけて行われた。この1か月は、多賀少年野球クラブにとって最も大切な時期だった。8月5日に開幕するマクドナルド杯に、滋賀県代表としての出場が決まっていた。辻監督は「学年も関係なく、唯一実力だけで選手を選ぶ大会」と位置付け、マクドナルド杯での優勝を逆算して1年のスケジュールを組んでいる。

 今夏にマクドナルド杯に出場したチームは、練習試合でもほとんど負けていなかった。全国大会の常連チームが相手でも大差で勝利する強さ。辻監督は自信を持って大会に臨んでいた。

 ところが、まさかの結果に終わった。4-5で初戦敗退。2点リードの最終回にエラーも重なって2アウトから試合をひっくり返された。辻監督は、こう振り返る。

「元々は子どもたちを楽しませて輝かせた先に勝利があると考えていたのに、日本一を達成してから周囲の目が変わりました。勝つことが日常という雰囲気で試合をしていました。試合の序盤で点数を取り損ね、私が感じていた嫌な空気や負けることへの恐怖心が子どもたちに伝わってしまったのだと思います。子どもたちに申し訳ないことをしてしまいました」

 負けたら終わりのトーナメントは心情がプレーに表れやすい。練習試合では経験しなかったミスも起こる。辻監督は「勝利を目指して練習することは大切ですが、試合では敗戦を恐れてはいけないと学びました。これからは負けを恐れないチームをつくっていきます」と気持ちを新たにした。

 密着取材を受ければ、行動や指導に制限がかかることは理解していた。結果を残せなければ、批判される可能性もあると覚悟していた。それでも、辻監督は「大変だと想像していても、実際に密着取材を経験しなければ気付けないこともありますから」と後悔していない。Noと言わないからこそ、見える景色がある。

第1回第2回から続く>

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