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「子どもたちには申し訳ないことを」テレビ密着取材を受けた“少年野球カリスマ”が戦術を口にしなかった理由「相手を傷つけたくないですから」
text by
間淳Jun Aida
photograph byJun Aida
posted2023/10/04 11:02
辻正人監督が率いる「多賀少年野球クラブ」は野球界の常識を覆しながら強くなろうと奮闘している
「考えてみましたが、デメリットは何もないですね。話をする時間は私の方で調整しているので、安全面にだけ気を付けてもらえればグラウンドを自由に歩いて撮影もしてもらって構いません」
取材に応じるデメリットはないと言い切った辻監督。では、「メリットは?」と質問すると、「チームを存続させるPRです」と答えが返ってきた。メディアで取り上げられることで、多賀少年野球クラブに興味を持つ子どもや保護者が増える。チームのホームページを見て練習見学に来てもらえれば、入団の可能性が高くなる。つまり、自らが広告塔になってチームをPRして選手を集めているのだ。
チームを長く継承させるためには勝つ必要が
マスコミの注目を集めるには、強いチームをつくる必要がある。どんなに先進的な取り組みをしていても、勝てないチームは見向きもされないと辻監督は実感している。今では広く知られている「ノーサイン=脳サイン野球」は10年以上前から実践しているが、当時は少年野球を中心に取材するごく一部のライターが情報発信しているだけだった。その情報への反応も薄かったという。
しかし、2018年に“小学生の甲子園”と呼ばれる高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントで初優勝し、翌年に連覇を果たすと取材依頼が一気に増加した。その報道を見た別のメディアから問い合わせが来る流れが生まれ、雪だるま式に取材が増えていった。
辻監督が語る。
「野球を楽しみながら強くなる今の指導は日本一にならなかったら、ここまで知ってもらえなかったと思います。同じことを発言して、同じように指導していても、結果を出さないと気付いてもらえません。勝利を目指すことが悪のように言われる時代だからこそ言いますが、勝つことはすごく大事です。チームを長く継承させるためには勝つ必要があります」
チームをPRするために勝利を目指すのではなく
辻監督の指導は何よりも勝利を最優先する、いわゆる勝利至上主義ではない。楽しく練習できるメニューや指導法を考案することで選手が自主的に練習して自然と上手くなり、結果的に勝利する仕組みをつくっているのだ。辻監督は「勝利理想主義」と呼ぶ。