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“変人扱いされた少年野球革命”…髪型自由で美容院とコラボ、家族旅行の休みOK「楽しみながら上手くなる」ヒケツを辻正人55歳が語る
posted2023/10/04 11:01
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Jun Aida
「常識という言葉は、あまり使いたくないんです。普通と感じることを口にしたり、当たり前のことを実行したりすると変わり者と言われるのが野球界なのかもしれませんね」
20歳の時に滋賀県多賀町に小学生の軟式野球チーム「多賀少年野球クラブ」を立ち上げてから、35年が経った。カリスマ、変人、変革者。チームを率いる辻正人監督は様々な言葉で表現される。
意味のない声出しは体力や集中力を欠くだけで逆効果
現在の少年野球界で、知名度も実績も辻監督の右に出る者はいないだろう。常識を覆して毎年のように全国大会に出場し、3度の日本一を成し遂げている。楽しみながら強くなる指導方法は、少年野球界を超えて注目されている。最近では中学や高校の野球をはじめ、バレーボールやバスケットといった競技の異なる指導者、さらには会社経営者や人事担当者も練習見学に訪れている。
多賀少年野球クラブの最大の特徴は「ノーサイン=脳サイン野球」にある。辻監督やコーチ陣がサインを出さず、選手間のサインやアイコンタクトで試合を進めていく。園児や小学校低学年から戦術や戦略を学んで考える力を養っている選手たちは、高学年になると指導者の指示が必要なくなるのだ。
辻監督は明確な理由もなく長年続いてきた少年野球の慣習に疑問を持ち、次々と常識を覆してきた。例えば多賀少年野球クラブでは、「バッチコイ」、「ストライクを入れていけ」といった少年野球では一般的な声出しが一切ない。辻監督が理由を説明する。
「声を出すのは目的があるからです。ところが、声を出すことが目的になっているケースがあります。意味のない声出しは体力や集中力を欠くだけで逆効果です」
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多賀少年野球クラブでは、声を出す場面は「準備・予測」、「指示」、「反省」の3つに限られている。