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エフフォーリア電撃引退の原因が“心房細動”だけではない理由…まさかの競走中止も、適切だった横山武史の判断「陣営や騎手を責めるのは間違い」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph bySankei Shinbun
posted2023/02/14 17:00
2月12日の京都記念(GII)にて心房細動を発症し、14日に電撃引退が発表されたエフフォーリア
心房細動だけが引退の理由ではない場合も
これらの例を見ると、心房細動は一過性の疾患で、フィジカル面での後遺症はほとんどないことがわかる。
が、2018年の有馬記念優勝馬ブラストワンピースは、2020年の有馬記念で心房細動のため競走中止となったあと、翌21年の鳴尾記念で3着となるも、その後は勝ち鞍を挙げることができないまま現役を退いた。
2022年の阪神大賞典で心房細動を発症して最下位となった重賞2勝馬ダンビュライトは、そのレースを最後に引退している。
ただ、これら2頭も、エフフォーリア同様、キャリアの最後のほうは成績が落ちていたので、心房細動だけが引退の理由となったわけでない、と見るべきだろう。
心房細動の発生率は「0.29%」
JRA競走馬総合研究所では、1988年から97年の10年間に行われたJRAのすべてのレースで、著しく遅れてゴールした馬(1着馬から芝では約4秒、ダートでは約5秒以上の遅れ)と競走中止になった馬の心房細動の発生率を調査した。同時に、発症した馬の性、馬齢、馬場、距離についても解析した。
その結果、出走した延べ40万4090頭のうち115頭(123例)に心房細動が観察された(0.030%)。出走した実頭数は3万9302頭だったので、頭数あたりの発生率は0.29%であった。
発症後24時間以内に正常な拍動リズムに戻った馬が92.7%、48時間以内に戻った馬が1.6%。
ほとんどが、数秒から数時間持続してから自然に回復する「発作性心房細動」であることが確認された。なお、再発率は6.1%だったという。一過性とはいえ、再発しないとは言い切れないのだ。
性別による差はなく、馬齢は4歳以上、馬場は芝で、長距離のレースになるほど、発症率が有意に上昇していることがわかった。
大きく遅れることなくゴールした馬も発症していることが考えられるので、実際は、この調査より若干多いものと思われる――と結論づけている。
陣営や騎手を責めるのは間違い
心房細動を発症する原因は、よくわかっていない。ただ、外厩などで発症したという話は聞いたことがないので、レースのように大きな負荷が誘因になるのは間違いないと思われる。が、馬齢や芝とダートの違い、距離による発生率に前記のように有意な差はあるとはいえ、その条件に当てはまるすべての馬が発症するわけではない。やはり、どうして発症するのかは、わからないのである。
少なくとも、ここに挙げた発症例と、競走研のデータを見れば、発症した馬の陣営や騎手を責めるのはお門違いであると、おわかりいただけるだろう。
エフフォーリアの引退は残念だが、種牡馬として、自身を超えるような大物をぜひ送り出してほしい。
今は、とにかく、この馬が無事であることを喜びたいと思う。
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